ファイナンス 2020年1月号 Vol.55 No.10
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○欧州安定メカニズムの設立まず、世界金融危機と欧州債務危機の中で、経済的困難に陥った加盟国を救済するための資金支援をする制度として欧州安定メカニズム(European Stability Mechanism)が設立された。この欧州安定メカニズムの設立は、より安定した経済通貨同盟に向けた重要なマイルストーンになる。○ 加盟国間における経済政策・財政政策の協調のための取り組みユーロ加盟国の経済政策の枠組みは、危機前は、金融政策は欧州中央銀行が一元的に行い、財政政策は各国が行うが、財政赤字対GDP比3%以下、政府債務残高は対GDP比60%以下という共通の財政ルールに従う必要があり、構造改革を含むその他の経済政策全般は、各国が独自に行うという制度であった。しかし、危機により、ユーロ圏の安定と加盟国間の経済的格差の収斂のためには、加盟国間の財政政策・経済政策をより強力に調整する枠組みが必要であることが明らかとなった。そこで、2011年から、各国の経済政策・財政政策を協調するための制度として、「欧州セメスター(European Semester)」が開始された。この枠組みは、(1)経済成長と雇用の促進に焦点を当てた構造改革、(2)債務の持続可能性を確保するための財政政策、(3)マクロ経済上の過度な不均衡の防止という三つの政策分野をカバーするものであり、毎年欧州委員会が各加盟国の上記三つの分野の経済政策を分析し、分析結果及びそれに基づく勧告案をEU加盟国に提示、これを受けてEU加盟国間で議論を行い、欧州議会の意見も聴きながら、EU全体としての経済政策の指針及び各国ごとの勧告を採択、各国はその勧告に従い経済政策を実施していくという、年間を通じたユーロ加盟国間の経済政策協調のための枠組みである。また、財政政策については、欧州セメスター開始以降、いわゆる「6-pack」や「2-pack」、「Fiscal Compact」といった複数の法律により、財政規律のルールの強化が進められてきている。○ 金融システムの安定性確保のための制度強化の取り組み更に「欧州経済通貨同盟の深化」において重要な取り組みが、金融システム強化のための取り組みである。危機以前の制度においては、金融政策は欧州中央銀行が一元的に行う一方、金融システムの安定性の確保は、各国の金融監督当局に多くが委ねられていた。金融危機により、こうした体制の問題が表面化する中で、EUは金融システムの安定性確保のための制度枠組みを強化するための取り組みを開始する。まずEU28加盟国全ての金融機関に適用される単一ルールブックの策定がなされた。これにより、EU域内の全ての金融機関に共通の健全性基準が適用されることになると共に、また預金保険による保険対象上限額が一律に100,000ユーロとなる等、EU域内の金融機関に統一の基準が適用されることとなった。▲ 銀行同盟更に、金融危機がユーロ圏の債務危機に展開していく中で、相互依存性の強いユーロ圏においては、より深度のある銀行システムの統合が必要であるとの認識がなされることになる。こうして、ユーロ圏における「銀行同盟」強化のための取り組みが進められることになる。銀行同盟は、(1)単一監督制度(Single Supervisory Mechanism)、(2)単一破綻処理制度(Single Resolution Mechanism)、(3)欧州預金保険制度(European Deposit Insurance Scheme)という三つの柱からなる。(1)については、これまで、銀行監督は、各国の監督当局に委ねられていたのに対し、欧州中央銀行が中心となってユーロ圏の銀行を監督する体制が構築されることになった。具体的には、大銀行については、欧州中央銀行が直接監督し、その他の銀行は、各国監督当局が引き続き監督するが、欧州中央銀行と各国監督当局は、緊密に連携しながら、銀行のEUのルールの遵守状況を監視していく体制が作られた。(2)については、ユーロ圏の銀行が破綻した場合、以前は、その破綻処理は各国に委ねられていたのに対し、単一破綻処理委員会(Single Resolution Board)という独立したEUの機関が、単一破綻処理基金(Single Resolution Fund)を用いて行うという体制が作られた。 ファイナンス 2020 Jan.56海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連載海外 ウォッチャー

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