ファイナンス 2020年1月号 Vol.55 No.10
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4. EUにおける経済通貨同盟の深化のための取り組み*7以上、我が国とEUの関係の進展と、欧州の経済状況について見てきたが、最後に、欧州連合の大多数の国が属するユーロを軸とした経済通貨同盟について、触れることとしたい。EUを理解するに当たっては、ユーロを軸とする経済通貨同盟の理解が不可欠である。経済通貨同盟を考えるに当たっては、少し歴史を遡る必要がある。(ユーロの導入とユーロ圏内の格差の収斂)現在19カ国が加盟国となっているユーロは、1999年に導入され、2019年に20周年を迎えた通貨である。ユーロは、米ドルに次いで、世界で最も利用されている通貨である。ユーロという単一通貨の導入により、ユーロ加盟国はユーロ導入前の1970年代、1980年代に経験したような高インフレや為替変動にさらされることがなくなり、ユーロ圏のインフレ率は、欧州中央銀行の金融政策の目標に沿った、概ね2%近辺かそれ以下で推移することになった。また世界第二位の準備通貨という地位を有するユーロの導入は、欧州企業に多大な恩恵を与えている。欧州企業は、およそ輸出の2/3と、輸入の半分についてユーロ建てのインボイスとしており、これにより、以前のような為替リスクや、国境を越えた取引コストがかからなくなっている。更にユーロ導入により、ユーロ加盟国19カ国の*7) ここでの説明は、欧州委員会が2017年5月31日に発表した「Reection paper on the deepening of the Economic and Monetary Union」と2019年6月12日に発表した「Deepening Europe’s Economic and Monetary Union:Taking stock four years after the Five Presidents’ Report」を主に参考としている。顧客に共通のユーロ建てインボイスが発行できるようになった。また、1999年のユーロ導入以降、ユーロ圏居住者の一人当たりの実質所得は、安定的に上昇していった。こうして、ユーロの導入により、ユーロ加盟国間の経済的格差は収斂していくことになった。(世界金融危機・欧州債務危機とユーロ圏内の格差の拡大)しかし、2007年-2008年に起こった世界金融危機は、ユーロという制度が内包する弱みを明らかにし、それまでに起こっていたユーロ圏内の経済的な収斂は幻想に過ぎなかったことが明らかになり、その後欧州債務危機に発展していくことになる。欧州委員会によれば、ユーロ導入以降のユーロ圏内の実質所得の上昇の原因の一つは、ユーロ導入による与信環境の改善と、経常収支赤字が拡大している加盟国への大量の資金流入にあった。しかし、これが必ずしも持続可能な経済成長のための投資につながらす、場合によっては、不動産や建設部門におけるバブルを引き起こしたり、政府支出の増加につながったりしていた。また、ユーロ圏の発展は、金融部門における脆弱性や、競争力の喪失といった問題を表面化させなくしてしまっていた。更に労働市場や財市場における非効率性が、こうした問題をより複雑な問題にしていった。(欧州経済通貨同盟の深化の取り組み)2007年-2008年に起こった世界金融危機により、それまでのユーロ加盟国間の収斂は終わりを遂げ、ユーロ加盟国間の格差は拡大していくことになる。世界金融危機とその後に起こった欧州債務危機により、ユーロに内在する脆弱性が明らかになる中、ユーロ加盟国は、ユーロという制度の維持と強化のための取り組みを開始する。この取り組みは、「欧州経済通貨同盟の深化(Deepening Europe’s Economic and Monetary Union)」と呼ばれ、現在まで続く取り組みである。以下では、この「欧州経済通貨同盟の深化」の取り組みについて説明していきたい。図表1  ユーロ圏GDP予測ーリスクのバランスにリンクした不確実性-23210-121201918171615141312(%)lower90%lower70%upper40%upper70%central scenarioactuallower40%upper90%出典:欧州委員会55 ファイナンス 2020 Jan.連載海外 ウォッチャー

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