ファイナンス 2020年1月号 Vol.55 No.10
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である。EUのように、欧州単一市場という形でヒト・モノ・サービスの移動を自由化するという深度の深い統合をするためには、共通の価値を有するということは極めて重要なことではないかと考える。また、価値を共有した国同士は、経済的な協力を超えた分野でも連携が可能となる。第二次世界大戦後、経済的な協力関係から始まったEUは、その後経済連合から政治連合へと発展し、今日では様々な政策分野で協力・連携を行っている。日本は、民主主義、法の支配、人権及び、基本的自由という価値をEUと共有しており、この価値の共有が、日・EU経済連携協定を超えた、日EU戦略的パートナーシップ協定における様々な分野での協力や、「持続可能な連結性及び質の高いインフラに関する日EUパートナーシップ」において、EUとアジアの連結性において、日本がEUと共に範を示していくことの土台となっているのである。3.EUの経済状況*1上記のように日本とEUとの関係が強化される中で、EUの経済状況は、我が国にとっても重大な関心事項である。特に、国際通貨基金(IMF)が発表した2019年10月の「世界経済見通し*2」によれば、「世界経済は、同時減速しており、心もとない見通し」という分析となっており、経済の下振れリスクが複数存在するという状況下においては、なおさらである。また、欧州は、程度の差はあるものの、人口動態や金融環境において、他の先進国よりも、日本との類似性があり、その意味からも、欧州経済をよく理解することは、我が国経済を考えるに当たっても、有意義なのではないかと考える。欧州経済の状況は、内閣府の月例経済報告と世界経済の潮流で説明されていることから、ここでは、当代表部において、筆者が常日頃フォローしている、欧州委員会が出している「欧州経済見通し」の内容を紹介することとしたい。以下では、欧州委員会が2019年*1) 本稿は、2019年11月から12月前半にかけて執筆したものであることから、ここでの説明は、その時点での経済状況についての説明となる。*2) IMF, World Economic Outlook, October 2019:Global Manufacturing Downturn, Rising Trade Barriers, 2019年10月15日 IMF,IMF Blog, 世界経済 同時減速、心もとない見通し、2019年10月15日*3) 欧州委員会, European Economic Forecast, Autumn 2019, 2019年11月7日11月に発表した「欧州経済見通し*3」の内容を簡単に紹介しながら、欧州経済を見ていくこととする。(経済見通し)今回の欧州委員会の秋の経済見通しにおいて、これまでの見通しから大きな変更がなされた点は、欧州経済は少なくとも今後2年間は有意義な回復をすることがもはや期待できなくなったという点である。これは、最近の世界経済の後退の多くの要因が、今後も継続して存在し続けるという、欧州委員会の判断が基になっている。その中でも特に重要なのが、貿易摩擦の深刻化と、貿易政策に関する史上稀に見る不確実性の高まりが、企業の投資を先送りさせ、また、多国間協力が今後弱まるという想定から、企業がこれまでの調達方法及びグローバルバリューチェーンを全面的に再考し始めている可能性があり、これが国際貿易に長期にわたる損害を及ぼした可能性があるという点である。こうした世界的な投資財等に対する需要の低迷と国際貿易の弱まりが、欧州経済への打撃となっている。欧州委員会の今回の見通しでは、実質GDP成長率は、EUは、2019年、2020年、2021年ともに1.4%、ユーロ圏は、2019年が1.1%、2020年、2021年が1.2%という低い経済成長率が継続するという見通しとなっている。(弱まる製造業と堅調なサービス業)このため産業別に見ると、製造業が打撃を受けている。国別に見ると、自動車産業をはじめとした製造業が重要な地位を占めるドイツの経済成長率が低くなっている。また、部品の製造をしている中東欧諸国は、これまでのところ、こうした影響から免れてきたが、貿易摩擦が長期化し、グローバルサプライチェーンの断絶が長期化すると、これらの国々にも遅かれ早かれ影響が及んでいくと考えられている。なお、自動車産業の低迷には、自動車業界における技術的な変更の影響も大きいことが指摘されている。高い生産性を誇る製造業を有する我が国が、EUと共に、自由貿易主義の旗手として、保護主義的な流れ ファイナンス 2020 Jan.52海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連載海外 ウォッチャー

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