ファイナンス 2020年1月号 Vol.55 No.10
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1.はじめに日本と欧州連合(EU)は、2018年7月に日・EU経済連携協定に署名、当協定により、世界GDPの約3割、世界貿易の約4割を占める世界最大級の自由な先進経済圏が誕生した。筆者は、当協定の署名がなされた2018年7月に欧州連合日本政府代表部に着任した。EUが経済的にも政治的にも日本にとって急速に重要なパートナーとなる中で、大変面白い時期に当代表部にて勤務する機会を頂いたことに感謝している。当代表部では、筆者は経済・財政を主に担当しているが、当代表部に赴任するまでの勤務において、国際金融、国際経済、国際租税、貿易協定を経験してきたことが、現在の職務を遂行するにあたり大変役に立っている。本コーナーは、海外勤務者が赴任先国の経済・文化・社会を紹介するコーナーであることから、EUの社会、文化についても紹介できたら良いのであるが、EUは28カ国から構成されており、その大多数の国に筆者自身一度も行ったことがない中で、そうしたテーマについて書くことは筆者の能力を超えており、また、それはヨーロッパとは何かということについて書くことにほぼ等しく、大変に難しいテーマであることから、今回は、筆者がここブリュッセルにて、常日頃フォローしている経済にテーマを絞って紹介することとしたい。そこで、まず最近の日EU関係の進展について簡単に説明した後、EUの経済状況と、EUにおける経済統合の取り組みについて紹介したい。なお、本稿は、筆者の個人的な見解に基づくものである。2.日EU関係の進展2018年7月、安倍総理大臣とトゥスク欧州理事会議長、ユンカー欧州委員会委員長との強固な信頼関係の下、日本とEUは、日・EU経済連携協定及び日EU戦略的パートナーシップ協定に署名、これにより、日本とEUは、双方の市場を相互に開放するとともに、幅広い分野における地球的規模の課題を含む共通の関心事項に関する協力を促進し、将来にわたる相互の戦略的なパートナーシップを強化していくことの法的基礎を形成したのである。この日・EU経済連携協定への署名は、当時の地政学的状況の変化の中において、日本とEUが貿易自由化の旗手として、世界に範を示すものという象徴的意味を有するものでもあった。更に、2019年9月には、ユンカー欧州委員会委員長の招待を受け、安倍総理大臣が当地ブリュッセルにおいて開催された「欧州連結性フォーラム」に出席、「持続可能な連結性及び質の高いインフラに関する日EUパートナーシップ」に署名した。これは、欧州とアジアの連結性の強化において、アジアにおいては日本が範を示していくというメッセージを世界に示す意味を有するものであった。(価値の連合としてのEU)このように日本とEUの関係が急速に強化されていく中において、EUとは、価値の連合であるということを認識しておくことがひとつの重要なポイントとなる。EUは、人間の尊厳、自由、民主主義、平等、法の支配、人権といった価値を共有する国々による連合である。つまり、単なる経済的利益で結びついているのではなく、共通の価値を有する国々による連合なのFOREIGN WATCHER海外ウォッチャー日本と欧州連合(EU)の関係強化と欧州の経済状況について欧州連合日本政府代表部参事官 石谷 良男51 ファイナンス 2020 Jan.連載海外 ウォッチャー

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