ファイナンス 2020年1月号 Vol.55 No.10
53/88

沼津には車いす用のトイレを設置している企業はほとんどありません。ですから、車椅子の障がい者は雇われることがないですし、道がバリアフリーになっていないので、移動ができません。そこで、ビルを1棟借りて障がい者の働く環境を整備しました。一部のフロアでは障がい者用のトイレも完備しました。また、車両を用意して、車いすの人を自宅から沼津事業所まで送迎しました。このように、トイレを改修し、移動手段を整えたことで、車いすの人もソフト開発やIT事業に従事できるようになりました。この結果、東京で法定雇用を満たせなかった一部上場企業2社がこの沼津事業所で訓練を受けた方の雇用を始めました。こうして沼津での雇用創出の支援をすることができたのです。(2)盛岡の事例次に、アイエスエフネットライフ盛岡事業所で行っているコールセンターの事例を紹介します。盛岡事業所ではアスペルガー症候群の人に営業コールをやってもらいました。リストに従ってITのお客さんに営業の電話をかけていくのですが、100件かけても97件は断られます。辛らつな言い方をされて心が折れるところですが、彼らはそうしたことを気にせずに、また電話するので、結構アポ率が高いのです。これも成功事例の一つです。(3)今後のプラン今後、沼津と盛岡を中心に就労支援の取組みを強化していきたいと考えています。特に沼津についてはITのRPA(Robotic Process Automation:ロボットによる業務自動化)プラスAIによって省力化ができます。8割方はコンピュータがやってくれるので、その操作を障がい者に覚えてもらう。そして、いろいろな会社のRPAの拠点として活用していきたいと考えています。10.おわりに(1)20年間での気付きまとめになりますが、私が20年間の経営で気が付いた点をお話しします。1点目は、心配は杞憂であるということです。それを乗り切る方法として、私は「未来ノート」を書いて、「自分はすごい」と自己暗示することを実践してきました。2点目は、チャンス、課題解決のヒントはたくさん目の前にあり、それに気付けるか否かが大切だということです。そのためには常に課題に対する意識を頭に入れ込むことが重要です。3点目は、大変なことをルーチン化して無意識のレベルでやれるようにして苦痛をなくす、ということです。4点目は、常に利他で考え、正しいか否かの判断で実行するということです。我が社の哲学です。5点目は、謙虚で常に教えていただく姿勢で日々を感謝して迎えるということです。これはISFnet Standard Conceptの軸となる考えです。(2)稲盛塾長の教え最後に、盛和塾の稲盛和夫塾長から教えていただいた「極楽と地獄は紙一重であり、違っているのはそこにいる人たちの心である。同じような世界に住んでいても、温かい思いやりの心が持てるかどうかで、そこが極楽にも地獄にもなる。」という言葉を紹介してこの講演を終わりにします。ご清聴ありがとうございました。講師略歴渡邉 幸義(わたなべ ゆきよし)株式会社アイエスエフネット代表取締役1986年に武蔵工業大学(現・東京都市大学)卒業後、日本ディジタル・イクイップメント株式会社(現・日本ヒューレット・パッカード株式会社)入社。2000年に株式会社アイエスエフネットを設立し、代表取締役に就任。雇用の創造を大義に掲げ、ニート・フリーター、障がい者、育児や介護従事者など就労困難者の雇用に積極的に取り組みつつ、利益を上げ続けている。社会価値を生み出す持続的な経営・組織・人づくりを称える「KAIKA Awards(KAIKA賞)」や「ワーク・ライフ・バランス大賞」など雇用に関するアワードも多数受賞。著書に、『「未来ノート」で道は開ける!』『社員みんながやさしくなった ~障がい者が入社してくれて変わったこと~』など。 ファイナンス 2020 Jan.48上級管理セミナー連載セミナー

元のページ  ../index.html#53

このブックを見る