ファイナンス 2020年1月号 Vol.55 No.10
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(3)銀行の資金引き上げ3つ目の失敗は銀行の資金引き上げです。これは評価の仕方が途中で変わったことによるものです。このときも、なんとか会社を維持することができ、我が社の経営を見直すチャンスにもなりました。7.想定内=認知していることの重要性自閉症について少しお話しします。東田直樹君という、とても重い自閉症の若者がいます。彼は自閉症について多くの本を書いています。Amazonでも彼の本の売れ行きが上位を占めています。翻訳もされ、世界的に見たら村上春樹よりも有名だとも言われています。この間、我が社のセミナーで彼を呼びました。出席者は福祉とIT業界の人たちでした。東田君が話の途中で、突然叫びながら部屋を出ていき、エレベーターのボタンを押して戻ってきたことが4回ありました。その時、福祉業界の人は驚きません。想定内のことだからです。しかし、IT業界の方は驚いてのけぞってしまいます。想定外だからです。想定外だと、認知できないために相手を受け入れることができないのです。東田君はこちらの質問をきちんと理解して回答してくれます。だから知的障がいではないのです。彼は自閉症でありながら自分のことを表現できる極めて少数の人なのです。彼は、本の中で「電車の中でぼくが叫ぶのは、『そんな目で僕のことを見ないでほしい』ということなのです。」と言っています。彼らは言葉で表現できないから叫ぶのです。それだけです。参加したIT業界の人からは「渡邉さん、こういう機会を設けてもらってありがとう。私はもう電車の中で自閉症の人に会っても差別しないで済みます。想定内になったから。」と言われました。障がい者が抱える問題は氷山の一角であり、ほかにも対応しなければいけない社会的課題がたくさんあることを私は学んできました。私は退職した後もそうした問題について取り組んでいきたいと考えています。8.「30大雇用」を通じて気が付いたこと次に、私が「30大雇用」を通じて気が付いたことについてお話しします。(1)社風づくり1点目は社風づくりです。社風は、時間をかけてつくるものであり、M&Aなどですぐにできるものではないということに気付きました。創業時からずっとこの社風づくりに取り組んでいます。我が社に差別はありません。この考え方に馴染めない人は他の会社に移ってもらいます。我が社の全ての部門に障がい者がいます。ISFnet Standard Conceptをベースにして、分け隔てなく、相手に配慮しながら仕事をしています。(2)障害者総合支援法の福祉への展開2点目は引きこもり支援から障害者総合支援法に基づく福祉へと展開し、今後、本体のITと福祉をつなぐ新しいモデルを作っていけるということに気付きました。この法律が制定されたとき、これだ、と思いました。それまで私のNPOではせいぜい5人、10人程度しか就労訓練ができませんでした。しかし、この総合支援法によって数百人、数千人のレベルで就労困難者の就労訓練ができるようになりました。(3)グローバル展開3点目はグローバル展開に寄与する大きな可能性があることに気付きました。現在、我が社では、約10か国の外国人の方が働いています。我が社のようなベンチャー企業は日本では新規取引がなかなか難しいのですが、海外に行くとそうではなく、新たなマーケットとなる可能性が十分にあり、こうしたところで外国人の方が活躍してくれます。また、東南アジアでは、現地の日本人会のメンバーの方々ともつながりができ、そうしたメンバーが日本に帰国した際、なにかと助けてくれることがありました。9.障害者総合支援法の事例紹介次に、障害者総合支援法の下で行っている就労支援の事例を紹介します。各事業所では、就職に向けて様々な訓練を提供しています。(1)沼津の事例まずは、アイエスエフネットライフ静岡 沼津事業所の例です。47 ファイナンス 2020 Jan.連載セミナー

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