ファイナンス 2020年1月号 Vol.55 No.10
51/88

に行きたくなくなるのです。この段階で相手を責めずに、理解して対応してあげると、ほぼ治ります。とにかく怒らない、そして、原因を確認する。一度精神疾患にかかると、なかなか企業になじめず、気力もないので、最終的には生活保護や非行につながることもあります。そこで、この点は特に気を付けて対処しています。(2)会社で気を付けていること次に、私が会社で気を付けていることをお話しします。私が会社で気を付けていること、1点目はISC(ISFnet Standard Concept)、2点目は男女年齢、国籍関係ない、差別のない風土づくり、3点目は働く環境の創造、この3点です。ここではISCを中心にご説明します。私は、新卒者に自分の会社を説明する時に「この会社に嫌な人はいません。」と言い切ります。新卒者は大体が大卒です。通常、大学生は嫌な人とは付き合いません。しかし、社会人になると上司を選べません。統計を見ると、社会人の86%は人間関係で悩んでおり、社会人の53%は人間関係で辞めているのです。うつ病になるのも人間関係が原因です。そこで、私は、いい人しかいない会社にする、といつも言っています。では、どうやってそれを実践するかというと、我が社の哲学・理念、ビジョン・指針、これに則って社員に行動してもらうのです。新卒者には「我が社は、男女、年齢、国籍皆バラバラです。会社では必ずチームで働き、上司がいます。上司はきっとあなたより年上です。ジェネレーションギャップがあるでしょう。でもこの会社では、7割、8割のメンバーが嫌だと思ったことを誰かがしていたら、改めてもらいます。もちろん私を含めて社員全員が対象です。」と言います。これがISFnet Standard Conceptです。社会人になると、誰も指摘してくれません。指摘してくれなければ、人は成長することは難しいのです。しかし、我々の会社には指摘してもらえる環境があるのです。つまり、7割、8割のメンバーから嫌だと指摘されたら、そこは改めていきましょうという環境を整えているのです。6.3つの失敗談次に私の失敗談を少しお話しします。これらの失敗は、会社が成長する大きなベースになったと考えています。(1)一から育てた社員の退社1つ目は一から育てた社員の退社です。会社立ち上げ後、育てきた社員がIT業界に引き抜かれてしまいました。一方で、稲盛さんから教わったことがあります。「渡邉さん、相手のためにやりなさい。それがあなたにとって損であったとしてもやりなさい。」と言われたのです。会社というのは基本的に損するようなことはやりません。でも稲盛さんは「3年とか5年というスパンではその得は見えないかもしれないが、10年、20年たつと、必ず他人にしてあげたことが返ってくるから。」と教えてくださいました。私は今、この教えが正しかったことを確信しています。我が社を辞めてIT業界に行った人たちは、ほぼ我が社に恩を感じています。彼らは移った先で、かなり良いポジションに就いています。その人たちが結構な割合で我が社の担当になっているのです。だから仕事がたくさん来るのです。このことを私は想像していませんでした。このビジネスモデルは頭で考えてできるものではありません。20年くらいかけて戻ってくるモデルです。人のためにやったら、自分から言わなくても人は返してくれるのです。育てた社員が引き抜かれたという失敗ではありましたが、結果的にうまくいったことになります。(2)哲学の理解不足による反発2つ目の失敗は哲学の理解不足による反発です。哲学を熱心に伝えることで、一部の社員から反発が起こりました。「利他の心」などを復唱させると、強制させらされているのではないかという不満が出ました。大事なことはそれをやり続けることです。そうすると、最終的にはそういう「利他の心」を大切にする人しか残りません。違和感ある人は会社を辞めて行きます。同じような価値観を持つ人が残るので会社は強くなります。 ファイナンス 2020 Jan.46上級管理セミナー連載セミナー

元のページ  ../index.html#51

このブックを見る