ファイナンス 2020年1月号 Vol.55 No.10
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利益が出た時点で、「10大雇用」に移行せずに、経験者のみを採用していたでしょう。(5) 「10大雇用」から「30大雇用」へ - 差別や偏見「10大雇用」、「20大雇用」、「25大雇用」、「30大雇用」と順に実施していく中で、私が問題だと思ったのは、差別や偏見についてです。例えば、ユニークフェイス、つまり見た目がユニークな方です。障がい者でも何でもないのです。あるとき、顔中が紫色をした若者が履歴書を持って私のところに求職してきました。履歴書もきれいなので採用したところ、1週間後に彼の母親が訪ねてきてすごく感謝されました。この若者はNHKのEテレのユニークフェイス特集にも出演しました。彼によると、100回も就職面談に落ちたということでした。履歴書はきれいなので落ちることはないと私は思うのです。明らかにそこには差別があるのです。「30大雇用」のうちの2割から3割は差別です。例えば、統合失調症は、薬の管理さえきちんとやっていれば健常者と変わりはありません。デスクワークもできますし、複雑な仕事もできます。ただ薬をきちんと管理しないと発病してしまうのです。薬で社会進出できるようになっているのです。そういったことを知っていると、どんな対処をしてあげればいいかが分かるのです。統合失調症はかつて精神分裂病と呼ばれていました。そのイメージが今も残り、何かあったら人を殺してしまうのではないか、という誤解があるために雇用しないのです。ただ、「30大雇用」を実施して感じるのは、差別や偏見は変えていくことができるということです。(6)気力のない人の問題様々な方の雇用を行っていく中で、厳しいなと感じたこともあります。それは、気力の問題です。気力がない人を雇用すると民間企業は潰れます。私は川崎市と提携して、107人の生活保護受給者を雇用しましたが、結論から言うと失敗しました。ちゃんと雇用できたのは17名で、残り90名は辞めていきました。なぜかというと、会社に来ることができなくなったのです。8割以上が精神疾患で気力がなく、我が社の給料と生活保護の受給額があまり変わらないので、どうしても生活保護の方に流れてしまうのです。気力の減退は主にうつ病、精神疾患から起こります。IT業界は精神疾患者を最も多く出している業界です。私は、そうしたことを無くしていきたいとの思いから、引きこもりのNPOを立ち上げて支援してきました。5年間引きこもると復帰には大体5年間かかります。また、5年間引きこもっていた人が会社に入ると、その人の気力は6割程度しかないので、会社の業務のスピードについていくことができなくなり、その結果、心が折れてもっとひどい状態になるのです。そこで、NPOを立ち上げて「気力8割プラン」というものを掲げました。つまり、NPOでその人の気力を8割まで戻してから、我が社で雇用するようにしました。ただ、これはやればやるほど赤字になるので、やりすぎると会社の経営が厳しくなります。5.実践したこと、気を付けていること次に、私が実践して有効だったことと気を付けていることをお話しします。(1)実践したこと●「哲学」を徹底的に学ぶまずは、経営の戦術とか戦略はやらずに「哲学」を徹底的に学んだことです。哲学を学んだことで会社がここまで大きくなりましたし、今も成長し続けています。起業して20年になりますが、哲学を学んだから成長できたという考えは私の中で確信に変わっています。哲学、すなわち物事を何か実行する際の考え方について、稲盛さんから深く薫陶を受け、そして自分自身でも学び、実行してきたのです。さきほど申し上げた「30大雇用」のように障がい者などの就業困難者の雇用をするのもしないのも私の判断です。その判断をするに当たり、前に進むかどうかも自分の考え方次第だと思います。「イエス」という判断をした自分のベースは何かというと、3年半盛和塾で学んだ哲学だったと思うのです。なお、我が社では、アイエスエフネット哲学という10項目を社員と復唱して実践しています。 ファイナンス 2020 Jan.44上級管理セミナー連載セミナー

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