ファイナンス 2020年1月号 Vol.55 No.10
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企業側の対応の必要性・日本企業がESGへの取組に注力を始めた要因の一つとして、海外投資家が株式の保有比率を高めたことが挙げられる。株主から企業価値向上の施策としてESG対応の強化を求められるようになり、それに応じる形で、ESG情報を開示する企業が増加した(図表7、8)。・投資家が特定の業界や関連企業への投資を控える様子や、投資を撤退する動きがみられる。例えば環境面への配慮から石炭関連業界への投資が控えられていると指摘されている(図表9)。・ESGへの取組として、近年、日本企業はESG関連に資金使途を制限した社債を発行しており、その金額と件数は今後も増加することが見込まれる(図表10)。図表7 日本における海外投資家の株式保有比率(年)1985199019952000200520102015302025151050(%)図表8 日本におけるESG開示スコア付企業数2018年2017年2016年2015年2014年2013年2012年2011年2010年2009年2008年2007年2006年2005年2004年2,5002,0001,5001,0005000(企業数)図表9 各業界の株価推移02001801601401201008060402013579111357911135791113579111357920152016201720182019石炭石油たばこS&P500酒類(注)各業界を代表する企業の株価より筆者作成   (2015年平均を100とする)図表10 日本企業のグリーン/ サステナビリティボンド発行高337.5970.51,298.13,323.06,308.78,453.7010,0009,0008,0007,0006,0005,0004,0003,0002,0001,000201420152016201720182019(年)(億円)グリーンボンドサステナビリティボンドESG対応のための企業の課題・近年では、日本企業はESGを存在価値向上や将来のビジネスチャンスとして捉えており、ESGが企業にとって株主対応以上の意味合いを持つようになったことが窺える(図表11)。・ESG投資を行う機関投資家は、様々な評価基準を用いた投資判断を模索している。例えば、企業の稼ぐ力とESGへの取組の双方を評価する指標として、ROESGモデルが一つの尺度として注目されている(図表12)。・また、ESGへの取組を評価する際に、どのようなESG情報が開示されているかも重要視されつつある。ESGへの取組を詳細に評価する「活動評価」が高くても、「開示度評価」が低い企業も多く存在することから、ESG活動と情報開示を一体として戦略的に取り組む必要がある(図表13)。図表11 日本企業のESG(SDGs)に 対する認識527098069598241292074585577特に重要であるとの認識はない重要と認識しているが明確な目的は模索中投資家対応企業の存在価値向上将来のビジネスチャンスその他ステークホルダーの関係強化持続可能性に関わる価値の向上020406080100(%)2017年2018年図表12 社会課題への対応と収益面双方を考慮した指標事例ESGファクター長期リターン(例:R&D)リスク対応コスト(例:規制対応)事例①:ROESGモデル事例②:KPMG ESG・ROICモデル短・中期リターン(例:エコ商材の利益)※ESGスコアの算出方法・ESG評価機関5社の各上位10%を1として,10%毎に0.1点ずつ減らし5社の点数を平均(上位には最大30%のプレミアムを付加)図表13 S&P100 ESG開示度評価と 活動評価ブルームバーグ社(開示度評価)蘭サステナリティクス社(活動評価)070605040302010050100(出典)日本銀行「ESG投資の最近の潮流」、ニッセイ基礎研究所「ESG投資と統合思考のために-「サステナビリティのメガトレンド」を背景にビジネス・パラダイムの大転換」、PRI「Signatory Growth」、GSIR「2018 GLOBAL SUSTAINABLE INVESTMENT REVIEW」、GCNJ「主流化に向かうSDGsとビジネス」、bloomberg、日本取引所グループ「株式分布状況調査結果」、環境省「グリーンボンド発行促進プラットフォーム」、伊藤レポート2.0、KPMG「ESG・ROICモデル~ESGと企業価値の連関を目指して」、証券アナリストジャーナル2019年10月号、日本経済新聞2019年8月12日電子版 (注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。 ファイナンス 2020 Jan.40コラム 経済トレンド 67連載経済 トレンド

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