ファイナンス 2020年1月号 Vol.55 No.10
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コラム 経済トレンド67大臣官房総合政策課 調査員 田村 怜/石本 琢ESG投資の動向と課題本稿では、近年におけるESG投資の動向と課題について考察した。ESGについて・ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の三要素を指しており、定量的な財務情報に加え、それら非財務情報を考慮する投資(運用)をESG投資と呼んでいる(図表1)。・ESGは当初、社会課題への自主的な対応から始まったが、のちに機関投資家により、長期収益獲得を図る上での重要な非財務情報として位置づけられるようになった。その後、国連が責任投資原則(PRI)を公表し、持続可能な社会発展に資する活動としてESGを重要視した投資が広く普及した(図表2)。・2015年にパリ協定が採択されたことも後押しし、PRIに賛同する機関数と署名機関の運用資産額はここ数年で急増しており、今後ESG投資額が増加することが考えられる(図表3)。図表1 持続可能社会とESG投資の 位置づけ賛同推進リターンESG投資持続可能な開発目標(SDGs)責任投資原則(PRI)投資家持続可能社会企業図表2 ESG投資成立までの歴史的変遷社会課題への対応長期的収益確保1920s~ 倫理投資1990s~ 非財務面の評価キリスト教会が、教義上容認不可能な業種を運用から排除。投資家が企業からの長期収益獲得を図る上で、企業の運営体制、事業継続性など非財務情報を評価する戦略が普及。企業は投資家を呼び込む為、社会貢献活動をCSRとして公表する方針へ転換。1960s~ 議決権行使を通じた社会運動株主の立場から利益追求だけの企業行動の変革を要請。2010s~ 社会課題への対応・長期収益双方が「ESG投資」という枠組で一致図表3 PRI署名機関数推移 (2019年10月時点)1021346286.31857341,1861,5012,3722,500署名機関数01002,000801,500601,0004050020020072010201320162019運用資産残高(兆米ドル)(年)署名機関保有資産残高署名機関数ESG投資の足元の動向・地域別のESG資産保有残高をみると、各地域で残高が増大している。日本のESG資産保有残高は増加が著しいものの、他国と比較すると、依然として低い水準にある(図表4)。・2018年に投資家が保有する総運用資産のうち、ESG資産が占める割合は地域差があるが、かねてからESGを重視している欧州以外にも、カナダ、オーストラリア/ニュージーランドの保有割合は過半を占める水準にまで到達している(図表5)。・世界のESG投資は株式による投資が半分に留まり、近年では、債券やその他の多様な資産を通じた投資が増え、投資家の選択肢が増加している(図表6)。図表4 地域別ESG資産保有残高12,0408,7231,08851627214,07511,9951,6997342,180016,00014,00012,00010,0008,0006,0004,0002,000欧州米加豪・新日本(十億米ドル)2016年2018年図表5 総運用資産に占めるESG資産の割合推移58.848.817.925.731.350.616.663.23.418.310.020.030.040.050.060.0070.02014年2016年2018年(%)欧米加豪/新日図表6 ESG資産世界合計の種類別内訳上場株式51%債券36%不動産 3%PE 3%その他 7%2018年ESG資産世界合計30.7兆ドル39 ファイナンス 2020 Jan.連載経済 トレンド

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