ファイナンス 2020年1月号 Vol.55 No.10
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評者渡部 晶大谷 基道 著東京事務所の政治学 都道府県からみた中央地方関係勁草書房 2019年10月 定価 本体4,000円+税本書の帯には、「なぜすべての都道府県が東京に事務所を置くのか?」、「国の補助金が少なくなったのに、東京都も含め全47都道府県が一糸乱れず東京事務所を持っているという『謎』。この謎を解いていくと、中央地方関係の意外なすがたが見えてくる!」とある。著者の大谷基道氏は、現在獨協大学法学部教授で、専門は行政学、地方自治論である。茨城県職員として東京事務所勤務の経験も持つ。本書は、2018年に早稲田大学大学院政治学研究科に提出した博士論文「都道府県東京事務所の総合的研究―東京事務所を通じた相互依存」(博士論文主査は稲継裕昭・同大政治経済学術院教授)に一部修正を加えたものである。本書の構成は、「はじめに」、「序章 問題意識と分析視角:なぜ東京事務所が必要なのか」、「第1章 東京事務所の現況と設置の経緯」、「第2章 東京事務所の活動実態とその変化」、「第3章 省庁県人会と東京事務所」、「第4章 東京事務所間の連携組織」、「第5章 すべての都道府県が東京事務所を置く理由」、「終章 結論と含意」、「あとがき」等となっている。「はじめに」で、著者は、「行政学の世界において、東京事務所は、知事をはじめとする地方政治家が中央政界に政治的な働きかけを行うための前線基地として長らく認識されていた」(「政治ルート」)が、本書の研究成果によれば、「『政治ルート』よりも、中央省庁・都道府県庁間の『行政ルート』において、より重要な役割を果たしてきたのではないかと考えられる」という。それは、「東京事務所を媒介者として国と都道府県との間で情報資源の交換が行われていた」役割だという。第1章で、先行研究などを踏まえたうえで、以下の2つの問いを提示する。リサーチ・クエスチョン(RQ)1~「地方分権改革、三位一体の改革による補助金の削減、交通インフラの整備、ICTの発達等により、都道府県が中央省庁と接触するための事務所を東京に構える必要は小さくなったように見える。しかし、都道府県は東京事務所を廃止することなく、現在も中央省庁との直接的な接触活動を継続している。なぜ都道府県は今も東京事務所を存続させているのか。」(都道府県が東京事務所を置く一般的な理由)リサーチ・クエスチョン(RQ)2~「都道府県が東京事務所を置くことに一定の合理性が認められるとしても、国への依存度や霞が関への距離に関係なく、東京都を含むすべての都道府県が東京事務所を置いているのはどのように説明すべきか。」(すべての都道府県が東京事務所を置く理由)この問いに関する仮説を提示し、それを分解して生成する論点を、文献調査、アンケート調査、インタビュー調査の結果を組み合わせて、東京事務所の実態を詳述しながら、実証・解明していくというスタイルをとる。第2章は、多く中央省庁との関係を分析している。東京事務所が中央地方間の政治的経路には直接関与していないことを確認しており、「強いて政治的経路への関与を挙げるとすれば、政治的圧力をかける際に必要となる情報の入手や接触ルートの確保(面会アポイントメントの取得)という形で間接的に関与するに過ぎない」とする。第3章の「県人会」や第4章の連携組織(「文教連」、「とんび会」など)の実態の叙述など、個々には多少知っているとしても、全貌を俯瞰した成果は非常に興味深い。第5章は、事務所設置の合理性が希薄な首都圏の1都3県について、社会学の同型化の理論(曖昧な状況下で組織行動を正当化しようとすると、同種の組織の行動が互いに同型化していく)による説明が可能であることを示す。そこには、東京事務所と全国知事会との密接な関係もあるという。評者は、2000年初頭のころ、政令指定都市の福岡市で、東京事務所も管轄していた総務企画局長をしていたことがあるが、「東京事務所」について初めてといっていい、本書の本格的な検討により、改めてその機能を深く認識するとともに、その国・地方関係における重要性に気付かされた。財務省関係者にも広く一読をお勧めしたい。 ファイナンス 2020 Jan.38ファイナンスライブラリーFINANCE LIBRARYファイナンスライブラリーライブラリー

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