ファイナンス 2020年1月号 Vol.55 No.10
37/88

性があること、航空機産業の最新技術が、他の製造業の技術発展や人材育成にも寄与すると考え、約20年前から同産業に着目し、市内のクラスター企業群の形成、拠点工場創設など、航空機産業に取り組む企業の育成やその支援、国内最大の航空機産業の拠点である中部圏との連携に取り組んできています。そして今後の更なる需要を見据える中で、年間5%の成長産業とされ、また若い方が高等教育機関等で学んだ知見を活かすことができ、魅力を感じる産業のひとつである航空機産業の振興が課題と捉えています。また航空機産業は裾野の広い産業です。電子・精密機械類だけではく、顧客を快適に目的地まで送り届ける観点から、機内食から座席シート、機内の映像コンテンツも航空機産業と言えます。航空機需要の高まりとともに、これら多岐にわたる分野でも活躍できる人材が必要となっています。3 エス・バードの創設そこで飯田市を含む南信州広域連合では、航空機産業をはじめとした産業振興と人材育成と一体的に担う場として、産業振興と人材育成の拠点(愛称:エス・バード)を2019年3月に全面オープンさせました。1.エス・バードとはエス・バードとは、当地域の産業振興と人材育成を図るための一大拠点です。施設には航空機産業や食品産業など地域の多様な産業の支援機関や、地域の皆さんのビジネスや学習、憩いの場が一体となっています。名前の由来は、「S」は南(South)、信州(Shinshu)、「B」は躍進(Breakthrough)、「I」は革新(Innovation)、「R」と「D」は研究開発(Research & Development)のイニシャルから、また同施設が航空機産業に取り組んでいること、当地域の技術や人材が世界で飛躍してほしいとの願いも込めて名付けられています。場所としては、統合により使われていなかったリニア駅予定地の近くの工業高校の空き校舎を改修し、試験所や500名規模のホールがあるA棟、市の工業課や県・地域の産業支援機関、インキュベート企業が入るB棟、航空機システムを研究する信州大学大学院やコワーキング空間の入るC棟、食品系の試験機器が揃うE棟からなっています。2.航空機システムとは航空機を構成する部品は機体の大きさにもよりますが約300万点と言われ、自動車の3万点と比較しても規模の違いが分かるかと思います。航空機は、機体、エンジン、それ以外の3要素で構成されますが、飯田ではこの「それ以外」に当たる航空機システム、すなわち「装備品」に特に重点を置いています。例えば離着陸時に出し入れされるランディングギアや、コックピット等の通信装置、客室の内装から照明、座席シートなどはすべて装備品に該当します。そして日本ではこの装備品市場が未だ成長の余地を秘めています。航空機1機当たりの価格構成比は、機体・エンジン・装備品で各3割前後ずつ、アメリカの航空機産業市場全体でも、機体・エンジン・装備品が各3割です。一方で日本の市場規模は、機体6割、エンジン3割、装備品0.5割となっており、装備品という日本が得意とする分野でも未だ成熟していないと言われています。3.大学院や試験研究所の創設世界の先端産業が盛んな都市では、大学と公設試験所が一体となり、人材育成から研究開発、実証試験までを一貫して行える体制が整っており、その周辺には企業が集積していたことから、エス・バードではこれをヒントに、(1)高度人材育成・供給機能、(2)研究開発機能、(3)実証試験機能をエス・バードに集約しています。4.信州大学大学院のサテライトキャンパス設置まず(1)高度人材育成・供給機能、(2)研究開発機能については信州大学にお願いし、2017年度より航空機に関する工学系修士課程の寄附講座を開講しています。高等教育機関は当地域の悲願であったことから、地域の産官学金の機関がコンソーシアムを形成し、講座の運営費や教授の人件費を寄附、キャンパスとしてはエス・バードを活用し、また長野市の工学部を卒業して引っ越してくる学生に対しては、地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)を活用し、南信州の14市町村が連携して地域内外の企業から寄附を募り、引越費や学費を支援しています。本講座では、宇宙航空研究開発機構(JAXA)や航 ファイナンス 2020 Jan.32地方創生の現場から【第8回】

元のページ  ../index.html#37

このブックを見る