ファイナンス 2020年1月号 Vol.55 No.10
36/88

り、蚕糸業が衰退し、職を求めて地域外に出ていかざるを得ない人も出たと言われています。そのような中、地域経済の厳しい境遇から、産業を起こし、雇用の場を創ろうとする人が現れ、1937年の国鉄の飯田線開通を契機に徐々に近代工業が振興します。第二次大戦に入ると、疎開してきた精密機械工業の企業により、当地域に電子、電気、精密機械工業等が定着し、1975年には中央自動車道が開通し、工場進出が促進され、現在の産業構造に至っています。3.リニア時代の到来 ~4時間が45分に~飯田市は、アルプスに挟まれた地理的な状況から、今なお東京から4時間かかる“陸の孤島”とも言われています。しかし2027年開業を目指すリニア中央新幹線の駅ができることにより、これまで4時間かかった東京には45分で、2時間かかった名古屋には25分でアクセスできるようになり、劇的に環境が変わります。(県庁所在地である長野市には引き続き約3時間かかりますが……)4.産業担当の部長級職としてこのように豊かな自然とユニークな催し、そしてリニア到来など、特徴のある飯田市に派遣された私が着任したのが産業経済部です。省庁で例えると、経産省、中企庁、厚労省の一部、農水省、林野庁、観光庁が合わさったような部署で、部長のもとに、部長級の「参事」として配属されました。課長10人、全体では70人強の部署ですが、本庁舎にいるのは部長と一部職員のみで、他のほぼ全ての課は、現場に事務所を置いています。例えば農業課はJAに、観光課は地域連携DMOに、というように関係機関と席を並べており、ここでも地域の方と一体となったまちづくりが体現されています。私は工業系担当であるので、後述するエス・バードに入居する産業支援機関「公益法人南信州・飯田産業センター」に席を構えています。2 4つの数字 ~飯田市の現状と課題~飯田市は、来たるリニア時代を見据え、地域を持続・発展させていくために様々な取組を推進しています。その背景にある当地域の社会情勢の変化と取り組むべき課題について、4つの数字から以下確認します。1.今後25年で10万人が7.5万人に日本の人口は、2008年の約1.28億人をピークに減少傾向にあり、仮にこのペースで進行すると2100年には約5千万人へと半減、明治時代後半の水準に戻ってしまうという推計されています。全国の市町村では人口減少と少子高齢化、東京への一極集中が加速しており、国立社会保障・人口問題研究所によれば、飯田市の人口も、現在10万人から2045年に約7.5万人になるとされており、人口減少対策が課題となっています。2.高校生の6割が地域外へ南信州地域(飯田市ほか13町村)では、毎年約1,500人が高校を卒業しますが、そのうち地域内就職が2割で、7割は大学進学等で一旦地域を離れます。その後Uターン就職等で一部戻りますが、結果的には毎年卒業していく高校生約1,500人のうち地元への回帰・定着は4割弱、残りの6割(約900人)が地域を離れている状況です。この理由は、地域に4年制大学がないこと、一旦離れて大学等で学んだ知見を活かせるような職種が限られていることなどであり、地域内への大学等の高等教育機関の設置や、若い方が活躍したいと思うような魅力ある多様な産業を創出していくことが課題となっています。3.東京~飯田が45分に前述のとおり、リニア中央新幹線の開通により、都市圏とのアクセスが劇的に容易になることから、例えば、観光面における交流人口の増加などのメリットを最大限活かしつつ、一方で地域の人材流出を最小化する戦略的な取組が課題となっています。4. 航空機は今後20年で2倍必要に時代に応じて産業が移り変わる中、今後世界的に航空機のニーズが高まると言われています。データによれば、世界の空を飛ぶ航空機は、1997年から2017年の20年で1万機から2万機へと倍増しており、今後2037年までに4万機へと更に倍増するとされ、既存機体の老朽化による買い替え需要も含めると、約3.4万機の製造が必要とされています。当地域では、主力となる精密機械・電子産業と親和31 ファイナンス 2020 Jan.

元のページ  ../index.html#36

このブックを見る