ファイナンス 2020年1月号 Vol.55 No.10
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ツール*10等を活用した選定の高度化の検討や大量データのマッチング分析等に取り組んでいるが、国税庁において情報システムの高度化が検討される中、データを活用し、より高度かつ戦略的な調査・徴収事務を行うためには、データサイエンスの知識を有する税務職員の育成が急務と考えられる。データサイエンスとは、ビッグデータを処理・分析し、そこから価値を引き出すための手法として理解されているが、このうち、データの処理には情報学(コンピュータ科学)が、データの分析には統計学が、データからの価値創造にはそれぞれの応用分野の領域知識が必要とされる*11。この点に関し、既に国税庁においては情報システムや統計の知識・スキルを課税等の実務に活用できる人材の育成に取り組むほか、税大研修の充実*12やeラーニングの実施を始めているが、より統計学に軸足を置いた研修が必要と考えられるため、2021年度から本校主催の長期研修として「データ活用研修」(仮称)を創設する予定であり、現在、庁内関係課室とカリキュラムや研修講師等について具体的詰めを行っているところである。ただし、同研修の期間は約3か月(予定)と短期間なので、データからの価値創造(税務行政への実践的応用)の習熟など高度の「データサイエンス力」を養成するための研修のあり方についても更に検討する必要があろう。また、「税務行政の将来像」の実現に当たっての業務改革である内部事務の集中処理(集約処理)については、既に国税庁の試行として、各局で「内部事務のセンター化」に取り組んでおり、現在、各税務署の管理運営部門や課税部門で行っている内部事務がセンターに集約される方向で検討が進められている。これに伴い、税務職員のキャリアパスに変化が生じる可能性があり、この点については今後詳細な制度設計がなされることとなろうが、税大研修の体系・内容もこの流れに沿って整理していく必要があると考えられる。さらに、近年、企業活動のグローバル化や複雑な組織再編が見られる中、大規模法人に対する調査を念頭*10) AI(Articial Intelligence)は、人工知能を、BI(Business Intelligence)ツールは、大量のデータを分析・可視化し、迅速な意思決定を補助するツールを、BA(Business Analytics)ツールは、統計学や機械学習を用いてデータ分析を行うツールを、それぞれ意味する。*11) 竹村彰通『データサイエンス入門』(岩波新書,2018年)2頁*12) 専科、本科等においてICTの基礎知識等のカリキュラムを拡充したほか、本校短期研修にもICTの活用についての研修が2コース設けられているが、いずれもデータの処理に重点が置かれている。*13) 例えば、同時に双方が発声することが可能となる機能や、複数台のカメラを受講生側が切り替えることができる機能を装備した機器。に、海外の制度も含めた金融・会計・会社法制に関する実践的な知識を持った税務職員をより育成することが急務と感じる。この点については、2で述べた「部内完結型」の研修制度にこだわらず、最新の実務に詳しい外部の専門家を講師とする科目の創設等を検討していくことも必要であると考えられる。次に、税務署における課題として、(1)過去の採用事情等による税務職員の年齢構成の偏りにより、若手職員に指導すべき経験豊富な中堅職員層が減少していること、(2)署の各部門の管理職員である統括国税調査官及び統括国税徴収官(以下「統括官」という。)は、調査・徴収等の事務管理、文書管理、部下職員の人事管理、危機管理対応等、事務運営において重要な役割を果たしているが、近年の事務負担の増加や各人の年齢・キャリアの差異により、効果的・効率的な部門運営が充分に果たせない者が見られること、が指摘できよう。これらの課題は研修だけで解決できるものではないが、職場研修においては、各国税局において、(1)については再任用職員の研修講師としての一層の活用、(2)については従来の「新任統括官研修」にとどまらず、統括官それぞれの不得意分野(審理、調査手続、マネジメント、情報システムに関する知識、等)に特化した討議形式の研修を行うことなどを検討してはどうか。なお、研修環境の整備の観点から付言すると、「働き方改革」を推進する中で、事情のある税務職員が自宅等においても研修を受講することができるよう、より使い勝手の良いテレワーク機器*13が必要と考えられる。税務大学校においては、庁内関係課室の理解・協力を得ながら、地方研修所における新機器の導入に向けて順次取り組んでいるところである。4おわりに今日、私的経済活動のあらゆる局面に関係を持つといえる税務行政は、他の行政分野と比較して、(1)早期かつ安定的に税収を確保する責務があること、(2)税法の執行の過程において納税者間の公平を図27 ファイナンス 2020 Jan.SPOT

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