ファイナンス 2020年1月号 Vol.55 No.10
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とともに、今後の国税組織における研修制度の課題や目指すべき姿について展望することとしたい。2税大研修及び職場研修の体系及び実施状況現在の税大研修の体系は、2011事務年度の全庁的な人材育成戦略の議論を踏まえて策定されたもので、研修のカリキュラムは、毎年度作成される「税務大学校教育計画」に基づいて決定されている。各研修(主な研修の種類・体系は図表1、2参照)の詳細について解説することが本稿の目的ではないので省略するが、税大研修をその趣旨によって分類すると、(1)採用直後から部内経験年数5年程度*6までの若手職員が税務職員として習得すべき基礎的知識や担当する事務系統(個人課税部門、資産課税部門、法人課税部門、徴収部門等)の各税法等についての専門的知識・技能を学ぶ研修(例:普通科、中等科、本科、専門官*6) ただし、試験により研修生が選抜される本科については、税務職員採用試験採用者の場合、経験年数17年未満かつ40歳未満まで受講可能。*7) 税法科目は所得税法、法人税法、国税徴収法等の租税法に関する科目を、実務科目は要件事実論(課税要件に該当する事実の検討を通じ、争訟に対応できる応用能力・審理能力を養成するもの)、海外取引調査法等を、会計科目は簿記会計学、財務諸表論等を、法律・経済科目等は行政法、民法、会社法、刑法、公共経済学等を指す。*8) 短期研修や通信研修の中にも討議時間が設けられているものがある。基礎研修、専科)、(2)試験等を経て選抜・選考された中堅職員が国際課税や審理等に関するより高度な専門的知識や調査等に活用できる応用能力の向上を図る、または税務に関する高度な専門的理論を習得するための研修(例:国際科、専攻科)、(3)一定の部内経験年数(約20年)を経た税務職員が実務的な審理能力の向上を図る研修(審理(特別)研修)、(4)税務職員が局などで一定の職務に従事した際に、事務を円滑かつ効率的に遂行する等のための専門知識を学ぶ研修(例:新任局係長級、査察(新任・中堅)、徴収審理、間接諸税)、(5)職務の遂行に必要な知識の習得等を目的とする通信研修(例:会計学、国際Ⅰ、Ⅱ、審理Ⅰ、Ⅱ)に大別されると考えられる。このうち(1)、(2)は実施期間が2か月から1年に及ぶ研修(以下「長期研修」という。)であり、(3)、(4)は実施期間が2週間以内の研修(以下「短期研修」という。)である。長期研修においては、税法科目、実務科目、会計科目及び法律・経済科目等*7の講義が行われるほか、平均20人前後の研修生で編成される班ごとに、具体的設例を題材に、税法の審理面のみならず調査手法等について討議する時間が設けられていることが多い*8。さらに、特筆すべきことと筆者は考えているが、(2)や(4)に分類される研修には、税務の専門知識のみならず、「的確な事務運営の実施」、「明るく風通しの良い職場環境の醸成」などをテーマとしたケーススタディを基に組織管理に必要なマネジメントを学ぶ授業を設けているものもあり、適正な組織運営に大きく資していると考えられる。次に、職場研修を概観する。国税局の規模や管轄区域の地域性等により運営に多少の差はあろうが、各局とも若手職員に対して指導育成プログラムに基づいて上司・先輩職員等による指導を行うほか、新任の副署長・総務課長・統括官等に対し、管理者育成研修を行っている。特に、各局とも若手職員に対する教育に力を入れており、若手職員が在籍する税務署においては、彼らの教育を重要な責務と捉え、様々な工夫を行っている。筆者の経験でいえば、税務署長は事務年図表1 2019年度に税務大学校で実施する主な研修種    類期    間2018年度研修人員(単位:人)備 考本 校 研 修専門官基礎研修社会人基礎研修専科本科国際科専攻科研究科評価特別研修酒税行政研修短期研修(29コース)約3か月間約3か月間約7か月間約1年間約5か月間約4か月間約1年3か月間約5か月間約5か月間2日間~12日間1,107200905293100100242015延べ2,411(1)(1)(1)(1)(2)(2)(2)(2)(2)(4)地方研修普通科中等科専攻税法研修審理(特別)研修約1年間約3か月間約2か月間1週間程度7523381,025456(1)(1)(1)(3)通 信 研 修会計学税務会計国際課税Ⅰ国際課税Ⅱ審理Ⅰ審理Ⅱ窓口英語韓国語中国語約7か月間約9か月間約6か月間約10か月間約10か月間約11か月間約6か月間約7か月間約7か月間延べ2,403(5)(5)(5)(5)(5)(5)(5)(5)(5)(注)1.研修人員は修了者を示す。2.備考欄は、本文2で分類した番号に対応している。3.通信研修については対応する期間内に、適宜、課題添削、面接授業を実施(国際課税Ⅰ、審理Ⅰ、韓国語及び中国語については、面接授業はない。)。※ 研修の名称は主に訓令で規定されており、名称が「○○研修」となっているものと、単に「△△」となっているものがあるが、過去からの経緯によるものであり、その差異に特に意味はない。 ファイナンス 2020 Jan.24国税組織における研修の現状と今後の展望 SPOT

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