ファイナンス 2020年1月号 Vol.55 No.10
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1はじめに国税庁においては、「納税者の自発的な納税義務の履行を適正かつ円滑に実現する」ことを使命とし、「内国税の適正かつ公平な賦課及び徴収の実現」を主たる任務*1としており、この使命及び任務を遂行するために、納税者サービスの充実や事務の効率化と組織運営の充実等と並び、適正・公平な課税・徴収に向けて、(1)納税者の権利・利益の保護を図りつつ、悪質な納税者には厳正な態度で臨む、(2)課税・滞納処分に当たっては、調査段階において、納税者の主張を正確に理解し、その内容を客観的に吟味した上、的確な事実認定と法令の適用を行う、(3)複雑化する経済取引等に対応するため情報収集体制の充実を図るとともに、資産運用の多様化や消費税の不正還付申告への対応など、経済・社会の変化に応じた重点課題を設定し、組織的に取り組む、(4)国際的な取引について租税条約などに基づく外国税務当局との情報交換を行い、課税上問題があると認められる租税回避行為などには厳正に対応する、など*2に取り組んでおり、55,903人の職員(2019年度定員、非常勤職員を除く。)が、国税庁本庁、12の国税局(沖縄国税事務所を含む。以下同じ。)及び524の税務署で業務を遂行している。国税庁の文教研修施設である税務大学校は、税務職員*3が上記の使命、任務及び取組にしたがって業務を適切に遂行できるよう、必要な研修を行う役割を担っている。税務大学校の研修(以下「税大研修」という。)は、2で述べるように、税務職員に対し、その採用試験区*1) 国税庁の使命は「国税庁の事務の実施基準及び準則に関する訓令」に、国税庁の任務は財務省設置法第19条にそれぞれ規定されている。*2) 国税庁レポート2019 7頁~8頁*3) 本稿で取り上げる研修は、税務職員採用試験(高等学校卒業程度)、国税専門官採用試験(大学卒業程度)及び経験者採用試験(大学卒業後、民間企業・官公庁等において正社員・正職員として従事した職務経験が8年以上)等により採用された、いわゆる「税務職員」(2019年度定員55,213人)を対象に行うものをいう。*4) 前記(注3)参照。*5) 本文2で(1)に分類する研修(若手向けの研修)においては、専科及び本科を除き、税法科目の講師はすべて部内職員であり、専科及び本科においても、外部講師の比率(授業時間ベース)は、事務系統により異なるものの、4%から11%程度である。分*4に従い、それぞれの職員に経験・知識・技能に応じた様々な研修を提供している。研修場所は、埼玉県和光市にある税務大学校本校(以下「本校」という。)及び各国税局単位で設置されている12の研修所(以下「地方研修所」という。)であり、科目によっては通信研修の制度が設けられている。研修講師は、主として教授や教育官等に任ぜられた経験豊富な税務職員が務めるとともに、一部の科目や授業については優れた学識を持つ大学教授や法曹関係者等の専門家に担っていただいている。また、研修を実施するのは税務大学校だけでなく、税務の第一線である国税局や税務署においても、OJTはもちろん、各局・各署の創意工夫により、税務職員に対する研修の機会が設けられており、上司や先輩職員が後輩や若手職員に対する講師役になっていることが多い。このように、税務職員は、そのキャリアを通じて、業務に必要な研修の機会を豊富に与えられていると言うことができ、また、それが可能であるのは、研修講師の多くを同じ国税組織内の税務職員が受け持っており、税大研修を見ても、例えば若手職員向けの研修における税法科目の講師のほとんどを「自前で」調達できていることにあると考えられる*5。筆者は、現在税務大学校長の職に就いているが、これまで複数の国税局で局長を経験させていただき、国税局・税務署の現場での研修(以下「職場研修」という。)の現状を目の当たりにしてきた。以下では、税大研修や職場研修の体系や実施状況について概観する国税組織における研修の 現状と今後の展望国税庁税務大学校長 垣水 純一23 ファイナンス 2020 Jan.SPOT

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