ファイナンス 2020年1月号 Vol.55 No.10
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う質問が出たのに対し、吉川名誉所長からは、名目GDPの伸びが低い水準である一方、超低金利が続き名目利子率がGDP成長率を下回っていることから直ちに債務が発散しないという理論に触れつつも、歳出の見直しと歳入確保の改革を進めることに加えて、イノベーションの推進、生産性向上及び労働参加率の押上げが必要であるとの見解が示された。様々な高齢化段階のケーススタディとして、IMFから観察した日本と、中国、インドネシア、インドそれぞれの課題と取組みが共有された。急速に高齢化が進むと予想される中国では、特に年金制度について、地方政府間の再配分等を進めることや基礎年金基金への中央政府からの補助金増額等が課題として挙げられた。また、人口ボーナスを享受するインドネシアにおいても、将来推計では高齢化が予測されており、労働人口の低下に備えて教育や医療といった人材投資を戦略的に重視していることが報告された。一方、インドからは、地方によっては若年層の失業率が非常に高いことが課題であり、雇用の創出の必要性が投げかけられた。閉会挨拶 大鹿行宏財務総合政策研究所長大鹿行宏財務総合政策研究所長より、2日間にわたって開催された本フォーラムの総括が行われた。国家や事業主体の債務の持続可能性を確保しながら、いかに効果的・効率的に公共投資を実施していくか、高齢化が進展する中でいかに財政の持続可能性を維持するのか、について問いかけがあった。本フォーラムで議論された問題は、自らが予算編成に携わる中で常に直面してきた課題であるとし、自然災害に対する強靭なインフラの構築に関しては、ハザードマップの作成等のソフト対策をハードのインフラ整備と併せて取り組む重要性が強調された。また、日本の高齢化問題は少子化を伴ったことで驚異的スピードで進行したこと、消費税率の引上げを含め、社会保障制度を持続可能にするために日本が様々な改革に取り組んできたことに言及があった上で、閉会が宣言された。(おわりに)当日はアジア諸国の参加者や国内の有識者から多数の質問が出て活発な議論が展開され、各国財政当局が政策立案をするにあたっての有意義な技術支援の一助となったのではないか。また、ホスト国である日本にとっても、日本が主導したG20の成果を非G20国が多いアジア諸国の当局に広報するとともに、財政分野における世界最先端の専門家の研究に直接触れる機会ともなるなど、有益なフォーラムであった。最後に、今回のフォーラムに多大なるご貢献をいただいた、登壇者、参加者、共催者であるIMF及びADBIその他関係者の皆様に厚く御礼申し上げたい。【特別セッションに登壇する吉川洋財務総合政策研究所名誉所長】【閉会挨拶をする大鹿行宏財務総合政策研究所長】【セッションにおける議論の模様】 ファイナンス 2020 Jan.20第5回Tokyo Fiscal ForumSPOT

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