ファイナンス 2020年1月号 Vol.55 No.10
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セッション3:環境や社会に配慮したインフラ投資議 長:西沢 利郎東京大学公共政策大学院教授発表者:Robert YoungmanOECD 環境局 グリーンファイナンスアンドインベストメント チームリーダーChiara BronchiADB持続的開発・気候変動局チーフテーマチックオフィサーKiwan Kim韓国開発研究院公共投資管理センター事務局長Loday Tshetenブータン財務省国家予算局課長インフラプロジェクトは、温室効果ガスの排出や、生物多様性、現地住民の雇用や技術移転といった様々な環境と社会の課題に直面し、プラス・マイナス両方の影響をもたらす。したがって、環境及び社会への影響は重要な要素として配慮されるべきであり、予算及びプロジェクトのライフサイクルを通じて管理されるべきものである。G20日本議長下においても、環境と社会への配慮の重要性が、「質の高いインフラ投資に関するG20原則」の中で強調され、環境・社会配慮の強化のためにとりうる方策をまとめたレファレンスノートがOECDで作成されている。本セッションではまず、当該レファレンスノートの概要についてOECDから紹介があった上で、ADBから具体的な取組みについて報告があった。取組みの事例として、南アジア地域経済協力プロジェクトにおいて、道路建設の際に野生動物の通路をあらかじめ確保した結果、実際に動物が利用する様子が観察され、交通事故防止や生物多様性の維持に寄与していることなどを挙げ、規制の強化や生態系の専門家等をインフラ設計に加えるべきとの提言があった。さらに、韓国とブータンから、それぞれの国における改善努力について説明があった。韓国からは、PPPプロジェクトの一環で埋立地から発生するガスを発電に利用することで、環境改善と民間投資家の収益改善につなげた事例等が紹介されるとともに、予算決定のためのプロジェクトの事前評価(Preliminary Feasibility Study)を、経済財務省の監督のもとに行っており、その基準自体も本年見直しがなされるなど、アップデートを続けていることが説明された。ブータンにおいても、環境保護にかかる政策立案と規制を行う委員会が設けられており、また、財務省はプロジェクトの予算執行の前に、すべての必要な条件が満たされていることを確認する役目を負っていることなどの報告があった。セッション4:アジアにおける強靭なインフラの構築議 長:Vitor GasparIMF財政局長発表者:Jim Brumby世界銀行ガバナンスグローバルプラクティス課長Krishna SrinivasanIMF西半球局副局長吉野 直行ADBI所長Rolando U. Toledoフィリピン予算管理省次官補気候変動が深刻化する中で、大規模な自然災害のリスクへの対応は、アジア地域に共通の課題となっている。インフラ投資を検討するにあたって、こうしたリスクを考慮することは不可欠であるが、強靭なインフラを構築するための多額の初期費用が足かせとなって相当の投資不足が起こっている。このような背景のもと、「質の高いインフラ投資に関するG20原則」の中でも、強靭なインフラの構築の重要性が謳われているところ、本セッションでは、強靭なインフラ構築のための組織的な枠組みについて議論がなされた。世銀からは、投資する金額のみならず、その後のガバナンスの向上が強靭性を左右するという研究結果が報告され、IMFからは、災害レジリエンスの包括的戦略の重要性が強調された。IMFの示す戦略とは、第一に、強靭なインフラ構築、リスクマップの制作、土地利用の適正化といった構造的強靭性、第二に、国家の財政金融フレームワークに災害リスクを盛り込むこと、予備費の確保といった資金面の強靭性、第三に、災害後の対応計画などの社会的強靭性であり、加盟国においてこれらを実現するために、監督、ツールの貸与、人的な技術支援が提供されている。ADBIからは、税収減という事実とデータを利用した自然災害の評価と災害債の発行について、独自の研究成果が報告された。また、フィリピンからは、フィリピン政府が直近6年間取り組んできた気候予算システム(Climate Budget System)について報告があった。当該システムは、実施しようとするプロジェクトが気候変 ファイナンス 2020 Jan.18第5回Tokyo Fiscal ForumSPOT

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