2019年12月号 Vol.55 No.9
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発生し、その大部分がHCMT沿いで生じたと言われている(Morris and Hills, p17, 2006)。上述の通り、歴史上比類ない量の爆撃を浴び、多大な被害を受けたラオスだが、同爆撃は同国経済に長く残存する影響を与えているのだろうか。この問いに対して、Yamada and Yamada(forthcoming)では、米軍の爆撃から約15~40年後の経済活動に同爆撃が影響を与えるかどうかを分析している。具体的には、経済活動の代理変数として夜間光平均照度と人口密度データを用い、それらと爆撃との因果関係を検証し*17) その識別戦略として、同論文では、米軍の爆撃がHCMTとXieng Khouang provinceに集中して投下された歴史的事実に着目し、HCMT及びXieng Khouang provinceと各行政区画(village)との間の距離を爆撃の強度を示す操作変数として採用している。*18) 経済成長理論における条件付き収束を指す。一方で、条件付き収束仮説を検証した実証研究の草分けであるBarro and Sala-i-Martin(1991, 1992)は、米国及び日本のデータを用いて条件付き収束を確認している。開発途上国の事例だと、Cárdenas and Pontón(1995)は、1950~1990年のコロンビアで同収束の存在を確認しており、Jian et al.(1996)は、中国を事例に取り、(1)計画経済の初期段階にある1952~1965年において弱い収束、(2)1965~1978年の期間においては強い発散、(3)1978以降の改革期に比較的強い収束があることを確認している。た。*17その結果、爆撃とその後約15~40年後のそれらの変数との間に統計的に有意な関係はほぼ全ての推定においてみられず、長期的に見れば、大量爆撃のような大規模な外的ショックがその後の経済活動に影響を与えないことが示唆された。また、爆撃後のラオスでは、数多くの事例で確認されている収束(元々貧しかった地域ほど高い成長率を示し、より豊かだった地域に追いついていく現象)は必ずしも確認されなかった。*18これは、米軍による爆撃で、村全体の約25%が不発弾(UXO:Unexploded Ordnance)により汚染され図2:米軍によるラオスに対する爆撃Panel A:ラオス全土Panel B:ラオス南部Panel C:ラオス北部出所:Theater History of Operations Reports(THOR)及びオーストラリア国立大学のCartoGIS Servicesに基づき筆者作成。注釈:Panel Aの黒点が米軍による爆撃を示し、色が濃い場所ほど爆撃量が多い。Panel Bの黒色でなぞられた線はHCMTの主要経路(1967年時点)を指す。Panel Cの黒く塗られた行政区画(province)は、Xieng Khouang provinceを指す。 ファイナンス 2019 Dec.65シリーズ 日本経済を考える 95連載日本経済を 考える

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