2019年12月号 Vol.55 No.9
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有人月面着陸も目前に迫っていた。しかし、宇宙飛行の進捗において旧ソ連の後塵を拝していた米国が1969年にアポロ11号による月面着陸を成功させ、最終的に人類初の大偉業を先取りされた形になる。*3東西冷戦下の当時、米国と世界における覇権を宇宙開発という舞台で争っていた旧ソ連は辛酸を舐めた。アポロ11号による人類の月面着陸から約半世紀後の現在、宇宙産業はさらなる発展を遂げた。同産業全体の売上高は、2018年時点で約3,600億ドル(40兆円弱*4)に上る(Bryce Space and Technology, 2019b)。その約8割を衛星産業(衛星サービス、地上設備、衛星の製造、ロケットの打ち上げ)が占め、残りの約2割を政府予算や商業宇宙旅行に関連する非衛星産業が占める構図となっている(図1 Panel A)。もはや公的資金の存在感は薄い。衛星産業で35%程度と最大シェアを占める衛星サービスには、衛星データ利用に関するもの以外に、衛星テレビ放送や衛星を使った電話システムなど、我々の日々の暮らしに密接したサービスも含まれる。*5衛星産業の売上規模は年々増加しており、2014~18年の平均成長率は3%に達する(図1 Panel B)。産業規模と成長率のみでみれば、商業としての宇宙産業はまだ黎明期にあるといえるが、2015年以降、新興ベンチャー企業に対する投資が急増しており今後の成長が大いに期待できる。例えば、*3) JAXA宇宙情報センター(http://spaceinfo.jaxa.jp/ja/cosmic_history.html)の情報に基づく(2019年10月25日にアクセス)。*4) 日本経済新聞電子版の2019年10月30日9:32時点のドル円為替相場(108.83–108.84)に基づき算出。以降のドル円換算にはこの為替相場を用いる。規模を比較するため、日本の産業を引き合いに出すと、日本の実質国内生産額(全産業の実質市場規模)は2017年時点で約1,000兆円と遥かに大きい(総務省,p73,2019)。最大シェアを占める産業は、情報通信産業(99.8兆円,シェア10.2%)と商業(91.7兆円,シェア9.3%)になる。*5) テレビ放送には地上波放送と衛星放送の二通りがあり、地上波放送は放送局から中継所を経由して家庭へ電波を送っている。一方で、衛星放送は、赤道上空にある人工衛星から家庭に直接電波を送っている。衛星放送は山岳地帯など、起伏の多い地域にも電波を送ることができるなど利点が多い。*6) 同投資額はDebt Financingを含む。*7) Debt Financingを除いた純粋な投資分のみでみた場合。Bryce Space and Technology(2019a)によれば、2000年以降の新興ベンチャー企業に対する投資(ストック)は約2,180億ドル(25兆円弱*6)なのだが、その三分の二を過去4年間(2015~18年)の投資が占める*7。宇宙産業の商業としての将来性は、IT業界の名だたる投資家の動向にも反映されている。個別の投資案件で最も大きなものは、Amazon.comの創業者Je Bezosが設立したBlue Originによるもので、その投資は推定7.5億ドル(800億円超)にも上る。Blue Originは、民間資本の参入により有人宇宙飛行を安くし、その安全性を高めることを目的にしている。Blue Origin以外にも、世界の名だたるIT関連企業の資金が宇宙へ向かっている。その目的は諸説あるが、数多くのIT企業が、宇宙から得られる全地球規模の高頻度かつ長期ビッグデータの商業利用を念頭に置いていることは間違いないだろう。3.統計としての衛星画像第2章で取り上げたように、宇宙産業は40兆円程度の規模に達し、その中でも衛星サービス分野は15兆円弱と全体の約35%のシェアを占める。本章では、その衛星サービス分野の中でも重要な位置を占めるリモートセンシングに着目し、その統計としての価値に図1:宇宙産業の内訳と衛星産業規模の推移Panel A:2018年の宇宙産業別売上高Panel B:衛星産業規模の推移衛星サービス地上設備衛星製造ロケット打ち上げ非衛星産業%)23028027527026526025525024524023520142015201620172018246255261269277出所:Bryce Space and Technology(2019b)に基づき筆者作成注記:単位は10億ドル ファイナンス 2019 Dec.61シリーズ 日本経済を考える 95連載日本経済を 考える

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