2019年12月号 Vol.55 No.9
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過去の「シリーズ日本経済を考える」については、財務総合政策研究所ホームページに掲載しています。http://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/index.html開発についての諸考察:宇宙から地球を見る*1財務総合政策研究所 研究官山田 昂弘シリーズ日本経済を考える951.はじめに“That's one small step for(a)man, one giant leap for mankind(一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍).”今からちょうど半世紀前の1969年7月20日に人類で初めて月面に足を踏み入れた米国のNeil Armstrong宇宙飛行士が地球に送ったメッセージである。人類の月面着陸は、20世紀ならびに、科学の大いなる進歩を象徴する歴史的偉業として認識されている。*2宇宙開発の進展によって人類の生活は豊かになっている。身近なところで言えば、気象衛星により天気予報の精度は向上し、衛星放送は起伏の大きい山岳地帯の人々の番組視聴を可能にし、衛星通信により世界情勢の機微な動きをリアルタイムで追うことができるようになった。また、国の利害を超えて、同じ地球の市民という共同体意識の醸成に寄与したという声も聞かれる。しかし、宇宙開発がその特に初期において、当時の二大大国である米国とソ連(米ソ)の世界の覇権争いとともに歩んだという事実は、あまり知られていないのかもしれない。本稿では、アポロ計画下の人類による月面着陸から半世紀という節目に、宇宙開発のはじまりといま(第2章)について触れ、宇宙開発の進展により生まれた高度な遠隔測定技術と同技術により撮影された衛星画*1) 本稿は、「ファイナンス」2018年12月号及び2019年2月号に執筆した山田(2018c, 2019)の続編になる。本稿の執筆にあたって、西畠万季人氏、片岡亮典氏から有益な助言や示唆をいただいた。ここに記して感謝の意を表する。また、本稿の内容及び意見は筆者の個人的な見解であり、筆者の所属する組織の見解を示すものではない。ありうべき誤りは筆者に帰す。*2) 人類初の月面着陸を描いた作品は数多くあるが、最近のものに映画「First Man」がある。無重力空間の静寂の中、人類で初めて月面を踏みしめるNeil Armstrongを演じるRyan Goslingの姿に目を奪われる。像を使った実証分析の概要を紹介する(第3章)。その後、人類の繁栄という名の下で推進されたアポロ計画の矛盾と、同時期に行われていたベトナム戦争での惨劇について概観する(第4章)。最後に、宇宙開発の「副産物」として普及した衛星画像を用い、ベトナム戦争の影響を検証した研究の概要を第5章で紹介し、本稿を結びたい。2.宇宙開発のはじまりといま宇宙開発のはじまりは、1950年代に遡る。宇宙飛行に向けた初期の試みとして、旧ソ連は犬をロケットに乗せて弾道飛行を開始した。その犬は地球周回中に命を落としたが、その後、米国が送ったチンパンジーは、宇宙飛行を生き延びた(ナショナルジオグラフィック,2019)。1957年、旧ソ連が打ち上げたSputnik 1は人工物として初めての地球周回を成功させ、米国により打ち上げられたExplorer 1が翌1958年に米国の人工衛星として初めての宇宙空間到達を成し遂げた。以降も、旧ソ連のVostok 1に搭乗したYurii A. Gagarinによる人類初の地球周回(1961年)やFriendship 7に乗り米国人初の地球周回をJohn H. Glenn Jr.が達成する(1962年)など、宇宙開発の歴史は年々塗り替えられていった。旧ソ連は、1960年代中盤に初の宇宙遊泳成功、無人探査機による月面軟着陸成功と、60 ファイナンス 2019 Dec.連載日本経済を 考える

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