2019年12月号 Vol.55 No.9
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リーグが中国で育成機関を作りました。5つの拠点があり、南京もその一つです。米プロスポーツ界は巨額のお金をかけて素晴らしい施設を作り、スカウティング網を張り巡らせます。米プロバスケットボールリーグのNBAは、中国国籍のスーパースター姚明(ヤオ・ミン)を発掘しました。姚明一人でNBAが中国に投資した金額の何百倍、何千倍もの見返りがあったのです。一人のスーパースター選手を発掘するために投資する、これが米国のやり方です。私たちのように、地べたを這いずり回ったり、中に入って何か浸透させようとか、文化レベルにまで高めようとか、そういう活動は一切しないのです。では、今の日本で米国と同じやり方をすべきでしょうか。私は、同じやり方はすべきでない、同じようなマーケットで戦うべきではないと思います。私が縁もゆかりもない四国で9年間も取り組んでいるのは、もしかしたら、この日本が将来世界に打って出ていくときに勝てる、そういうノウハウを作り上げることができるのではないかと信じているからなのです。確かにアイランドリーグはすごく小さなモデルかもしれません。しかし、そうした取組みの途中で出てきたのが増田大輝選手という逸材なのです。日本では野球人口が減っている、だから対策を打たなければならない、それはそのとおりです。そこで日本がこれまで蓄積してきたノウハウ、地べたを這いずり回って文化として浸透させていくノウハウを活かして、どんどん海外に出て行き、そこでできることがあるのだということを私たちは示すべく、いろいろなところに出掛けていくのです。5.人材育成と地域貢献いろいろお話ししてまいりましたが、私たちは結局何をやっているのでしょうか。それは、「人材育成と地域貢献」だとリーグ創設当初から言ってきています。(1)人材育成これまで62人をプロ野球選手としてNPBに送り出してきました。しかし、残り800名の若者に対しては必ずしも十分に目を向けることができなかった面はあると思います。そこで、NPBに行く若者を育てる以上に、地域でのいろいろな活動を通じて社会性を身に付ける、いろいろな地域社会の文化を身に付けさせる人間教育をする、残り800人の若者がアイランドリーグを最後に野球は諦め、一人の社会人として社会に出ていったときに有為な人間になれるような教育をしていこうという方向にシフトチェンジしてきています。(2)地域貢献各球団とも年間200回ぐらい様々な地域活動を行っています。野球教室、まちの清掃活動、お祭りでの神輿の担ぎ手など、多くの行事に選手だけでなくスタッフも含めて参加しています。200回という数を見て分かるように、決してシーズンオフの空いている時間だけにやっているわけではないのです。シーズン中であるか否かに関わりなく、私たちは出まくっているのです。リーグ全体では年間800回ということになります。これは四国総人口の何人かに一人は一年のうち、どこかでは私たちと接していることになるのです。この接触人口は大変多いと思います。徳島の阿波踊りでは私も選手も踊りました。高知では選手が地元の幼稚園児と一緒に田植えをやりました。刈り取りまで一緒にやり、カレーを作ってみんなで食べるのです。こうした行事に参加していると、とてもいいことをやっている気分になります。私みたいに都会で育った人間からすると、子どもたちと一緒に泥だらけになっているだけで地域貢献している気になります。綺麗事に酔っているといった感じでしょうか。これが地方創生でありがちなワナだと思います。私たちは本当に地域の課題を解決することをやっているのだろうか、こうしたことが本当に地域のためになるのだろうかと常に疑問に思っていました。地域貢献というのは、地域を盛り上げる、賑わいづくり、そんな抽象的な言葉で盛り上がっても意味はありません。結局のところ、経済的なインパクトをもたらさなかったら私たちは地域に貢献しているとは言えません。逆に地域のお荷物になります。地域の人はそこをしっかり見ているのです。雇用を創出してカネを生み出して税金を納めなかったら、リーグ運営も球団運営もやっている意味がないのです。だから私たちは黒字にしなければいけないのです。経済の主体として、 ファイナンス 2019 Dec.51上級管理セミナー連載セミナー

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