2019年12月号 Vol.55 No.9
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転職者数増加の背景・転職者数増加の背景としては、景気回復をにらみ採用を積極化したことや異業種や専門人材確保のため、企業が若手だけでなく経験豊富な管理職などを外部から登用していること等が指摘されている(図表7)。・労働者サイドにおいても、転職や起業が珍しくなくなっている状況下、転職後に賃金が上昇した割合が増えていることも転職を決意する人が増えている要因と考えられる(図表8)。・そのような中、転職希望者については、2012年までは概ね横ばい圏内であったものの、直近では大幅に増加している(図表9)。希望する条件の求人がないため転職に至っていない「転職予備軍」の存在も指摘されており、今後の条件改善次第では、転職希望者が一気に転職市場に参入してくる可能性がある。図表7 会社が転職者採用で重視した要素060(%)1020304050年齢学歴前職の賃金前職の役職免許・資格その他これまでの経験・能力・知識12.00.97.00.652.810.611.5図表8 転職入職者の賃金変動状況以前の職より増加以前の職より1割以上の増加1540(%)2025303520070809101112131415161718(年)45図表9 転職希望者の推移0800(15~54歳、万人)1002003004005006007002018201220072002(年)企業等の課題・転職者数増加の傾向は、社会としての人材活用という観点等からポジティブに捉えられる。他方、その裏で日本型雇用が構造的な問題を抱えている可能性がある。・現在、中高年者の賃金は、以前の世代のような賃金水準を得られなくなってきている。賃金カーブのフラット化は、労働者にとっては、想定していたよりも賃金が増加しない、あるいは今後の賃金増加を期待できなくなるため、同一の企業に勤続するインセンティブを損なう可能性がある(図表10)。・また、健康寿命の延びや将来不安の中、定年延長等による働く期間の延伸は、多くのミドルがキャリアプランの見直しのきっかけになると回答している。自身の能力を長い期間活かせるキャリアを検討し、転職が増える可能性が考えられる(図表11、12)。・労働者サイドのキャリア観の変化に対し、新卒を一括採用し、長期的な人材投資で育成し、終身雇用する日本型雇用は変革を迫られているといえるだろう。今後、企業等には多様な人材を活かすためにも、勤労意欲を上げるためのインセンティブ設計の再構築や多様な働き方ができる環境整備を期待したい。図表10 賃金カーブの推移0400300200100(注3)賃金は、所定内給与×12+過去1年間の賞与。(注4)「標準労働者」とは、学校卒業後直ちに企業に就職し、   同一企業に継続勤務しているとみなされる労働者をいう。60〜6455〜5950〜5445〜4940〜4435〜3930〜3425〜2920〜24(歳)(男性標準労働者(大卒)、20~24歳時点=100)201820082000図表11 定年延長はキャリアプランを見直すきっかけになるか70%68%55%30%32%45%100806040200(%)50代40代30代全体いいえ33%はい67%図表12 「図表11」で「はい」と回答した方が、どのような見直しを検討しているかその他退職し、留学や資格取得などを行ってから転職活動をする現職企業内にて新しい経験を積んでいく方法を模索する起業やフリーランスを検討する現職企業内にて経験を活かし長く活躍できる方法を模索する新しい経験が積める別企業への転職を検討するこれまでの経験が活かせる別企業への転職を検討する6040200(%)全体30代40代50代(出典)総務省「労働力調査」、厚生労働省「一般職業紹介状況」、「転職者実態調査」(2015年)、「雇用動向調査」、「賃金構造基本統計調査」、日本銀行「全国企業短期経済観測調査」、エン・ジャパン「ミドルに聞く『定年延長』意識調査」(2019年1月) (注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。 ファイナンス 2019 Dec.47コラム 経済トレンド 66連載経済 トレンド

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