2019年12月号 Vol.55 No.9
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評者渡部 晶水口 剛 編著「サステナブル ファイナンスの時代」金融財政事情研究会 2019年6月 定価 本体1,400円+税昨今、EUを中心に、ESG債(グリーンボンド、ソーシャルボンド、サステナビリティボンドなどを総称)をはじめとするサステナブルファイナンスをめぐる国際的な議論が活発化している。本書は、野村資本市場研究所が、グリーンボンド等のESG債市場に関する調査研究を目的として、2018年2月に設立した「ESG債市場の持続的発展に関する研究会」(座長:高崎経済大学 水口剛教授)の、2019年1月までの1年間8回にわたる研究会の成果を世に問うたものである。グリーンボンドやソーシャルボンド等のESG債市場の拡大が進む中、基礎編(第1章~第6章)として、発行・投資の実務や現状を紹介するとともに、研究編(第7章~第14章)として、同市場が健全な発展に向けた様々な上記の論点を洗い出し、まとめたものとなった。本書の冒頭は、水口座長の「解題 ESG債をめぐる論点」から始まる。論点として提示されたのは、ESG債の概念タイプと境界、グリーンプロジェクトの内容と水準、ESG債のコストとプライシング、経済的リターンと社会的リターン、社会的インパクトの追加性(additionality)、外部レビューの役割と影響、日本固有の事情をどう考えるか、ESG債市場の持続的な発展に向けて、である。この11月に出た「野村資本市場クォータリー2019年秋号(Vol.23-2)」に、研究会メンバーの1人で、基礎編及び第13章を執筆した、江夏あかね主任研究員の「『ESG債市場の持続的発展に関する研究会』及びセミナー報告」が掲載されている。ちなみに江夏氏は、2012年より現職で、研究分野は、国家・地方財政、信用分析及び格付け、ESGである。サステナブルファイナンスについての論稿を活発に公表している。それによれば、ESG債及びESG債市場の持続的発展に関する論点として、資金調達手段としてのモチベーション(第7章)、追加性(第8章)、プライシング(第9章)、外部評価・(第10章)、インパクトレポーティング(第11章)、グリーンボンドからソーシャルボンドへの広がり(第12章)、日本におけるESG課題(第13章)などが挙げられた。研究会の問題意識を確認すべく、野村證券が2019年7月4日にブルームバーグと共催で開催したセミナーで、発行体、投資家等の聴衆を対象にESG債に対する考え方等をアンケート調査した。ESG債市場が発展する上でカギとなるESG債の要素に関する質問では、「インパクトの追求」との回答が最も多く、「市場の育成に向けた取り組み」が続くなど、興味深い結果が示されたとする。すなわち、金融市場において、投資判断として長らく根付いてきたリスクとリターンという2つの側面に加え、ESG債に特有の要素として、環境的・社会的にポジティブな影響を及ぼすという意味のインパクトが挙げられたのが示唆深いという。第14章は、研究会からのメッセージとして、ESG債市場が持続的に発展するうえで鍵となると思われる要素を4点に集約している。すなわち、「インパクトの追求」、「市場育成に向けた取り組み」、「ESG債の商品性の改善・向上」、「情報の蓄積と共有」である。「インパクトの追求」には、インパクトをどのように測定・評価するかが問題になるとする。インパクトは、現状では、金融商品の要素として比較できないという。そこで、類型化と定量化による結果の計測もしくは評価が必要とする。「市場育成に向けた取り組み」では、関係者ごとに必要な取組みを例示する。「ESG債の商品性の改善・向上」では、より「環境・社会への投資」として性格を際立たせる商品性が、よりインパクトを求める投資家を市場に呼び込む契機になる可能性が語られる。「情報の蓄積と共有」では、合理的な投資判断のため、インパクトの開示や計測方法等、ESG債に特有のインパクトの情報を整理し、分析可能で容易にアクセスできるようにすることが期待されている。21世紀的課題であるESG(あるいはSDGs)の潮流で、債券市場にも大きな変化の兆候を感じさせる1冊である。一読をお勧めしたい。42 ファイナンス 2019 Dec.ファイナンスライブラリーFINANCE LIBRARYファイナンスライブラリーライブラリー

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