2019年12月号 Vol.55 No.9
43/84

しかし-、結果として輸出量は2倍にならず、昨年とほぼ同量にとどまった。なぜか?確かに2トンのすだちを輸出作業に持ち込んだ。しかし、その約半数に既にカンキツかいよう病が発生してしまっており、検疫で弾かれてしまったのだった(病気が発生してしまったすだちは輸出できず、発生していないすだちのみ、殺菌の上輸出可能。)。本年8月15日、台風10号が西日本に襲来し、徳島県にも被害をもたらした。指定圃場のすだちに大量の落果こそなかったが、風ですだちの実がこすれ、傷がついてしまった。その部分にカンキツかいよう病菌が侵入していたのだった。収穫直前に台風が襲来したため、この時点では手の施しようがなかったのである。6来年に向けたリベンジ計画 -政策の相乗効果を目指してさて、以上のように本年は農福連携のモデルとして、また、障がい者就労支援の場としての一歩は踏み出したが、輸出の倍増とまでには至らなかった。しかし、依然として欧州ではすだちを売り込むチャンスがある。この機会を確実に捉えるため、筆者は県庁内に「すだち輸出新未来化プロジェクトチーム(仮)」*3を発足させ、以下の事業を展開中である。(1) 登録圃場の拡大、欧州での更なる市場の開拓需要はあるのに輸出に回せていない、ならそもそもの輸出量を増やさなければならない。天候はいわば「所与の条件」として、仮に来年も台風が来て半分ダメになったとしても、輸出に回せるだけの十分なすだちをそもそも確保しておかねばならない。ということで、指定圃場自体を増やすことがまず必要になる。これはもう、個別に生産者を回ってお願いするしかなく、筆者も農林水産部の担当者と手分けをして、生産者に直接、欧州でのすだちの可能性を説明に上がっているところである。加えて、欧州でより多くの人にすだちを認知してもらう必要があるため、本年11月5日にパリにて「と*3) メンバーは農林水産部、教育委員会、政策創造部(企画部門)、徳島大学など。くしま食材サロン会」を開催した。ここでは、フランスのトップシェフやパティシエに徳島の食材(すだち、鳴門金時、わかめ、蓮根など)を使った料理を作ってもらい、現地のシェフ、バイヤー等、約80名に参加してもらった。評価は上々で、さらなる需要拡大が期待される。(2)農福連携のさらなる深化本年は近隣の支援学校1校に実習として参加してもらったが、上述のように業者からさらに参加者を増やしてほしいとの要望もあったところであり、障がい者の方の就労支援の場をさらに拡大するため、全県の支援学校に参加を呼びかけることとしている。実際は移動距離の関係で近隣の学校ということになろうが、可能なところから農福連携をさらに深化させていきたいと考えている。また、実習だけでなく、障がい者雇用を図っていくことも計画している。(3)深紫外LEDの開発LEDの光の中でも、特に高エネルギーを持つ「深紫外」という波長の光は、細胞中のDNAに直接影響を与えることができ、菌やがん細胞のDNAにも効果を発揮できる(平たく言うと、「菌でもがん細胞でも殺せる」。)。そして、徳島県はLED産業が盛んな地でもある。これに目を付けた筆者は、徳島大学ポストLED研究所に「深紫外LEDをすだちの殺菌に使えませんか?」と持ち掛けた。同研究所の永松謙太郎・特任准教授から「是非やらせてほしい」とご快諾を頂き、同准教授をはじめとする開発チームにおいて、かいよう病菌への照射実験や装置の開発を近く行う予定である。上記の検疫作業のうち、次亜塩素酸ナトリウムへの浸漬・乾燥は結構な重労働であり(筆者も危うく腰を痛めるところだった。)、この工程を深紫外LEDで殺菌できれば(例えばベルトコンベヤー上をすだちを転がし、深紫外LED光を照射するなど)、作業は相当楽になる。また、無農薬で殺菌できるということにもなる。 ファイナンス 2019 Dec.39徳島産すだち輸出倍増計画てんまつ記 SPOT

元のページ  ../index.html#43

このブックを見る