2019年12月号 Vol.55 No.9
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(2) 欧州でのすだちブーム主に県内または関西圏で使われることが多いすだちであるが、2016年(平成28年)にすだち史に銘記されるべき出来事が起こる。同年12月のノーベル賞授賞式のディナーにおいて、すだちを使ったムースが供されたのである。これに反応したのがフランスはじめ欧州のトップシェフ達で、「YUZU(ゆず)は知っているが、この新しい柑橘は何だ? すごくいい香りじゃないか!」と大いに関心を持つに至った。その結果、表1にあるように、すだちの欧州向けの輸出量は大いに伸び、既に欧州で先行していたゆずに次ぐ柑橘として輸出拡大が大いに期待されている。本年5月頃、「欧州ですだちがブームになっている。去年の輸出量は1トンだったが、倍くらいの需要はあるらしい。」との話を聞きつけた筆者はごく単純にこう思った。「県内の収穫量は年間約5000トンもある。なら、あと1トンくらいは輸出に回せるはずだ。よし、俺が直接指導してやろう!」2欧州輸出の高い壁-2つのハードルしかし、欧州への柑橘の輸出には検疫の高いハードルがある。それは、(1)欧州輸出用に認定された圃場(農地)から収穫されたものでなければならないこと、(2)実際の輸出作業の際、検疫所の立ち合いの下、指定された薬品に指定された時間浸して殺菌しなければならないこと、の2つである。(1)指定圃場まず、柑橘類に卵を産みつける「ミカンバエ」(写真4)という虫がそのすだち農園にいないことを、「フェロモントラップ(写真5)」という罠を使って証明しなければならない(ミカンバエの欧州への侵入を防ぐため)。それが証明された圃場だけが欧州向けのすだちを収穫してよいことになる。つまり、「すだちさえあればいい、どのすだちでもいい」というわけでなく、特定の農地のすだちのみ、輸出が可能なのである。(2)薬品による殺菌次に、実際に収穫されたすだちに対して、検疫所の立会いの下、「次亜塩素酸ナトリウム」という薬品の溶液に2分間漬け、「カンキツかいよう病菌」を殺菌しなければならない。小学校の水泳の授業でプールに入る前、小さなプールに入って消毒をしたという経験のある読者諸氏もあるかと思うが、「次亜塩素酸ナトリウム溶液」とはそれである。カンキツかいよう病菌とは、植物に写真6のような症状を引き起こすもので、ひどい場合は樹木の枯死をもたらす。実際の作業は写真7の通り、かごにすだちを入れて次亜塩素酸ナトリウム溶液の入った水槽に2分漬ける(横で検疫所の職員がストップウォッチで時間を計っている。)。これが結構重く大変である。その後、取り出して(写真4)ミカンバエ(表1)欧州向けすだち輸出量の推移平成30年度平成29年度平成28年度10.1000.20.40.60.811.2トン(写真5)フェロモントラップ(写真6) カンキツかいよう病が発生したすだち ファイナンス 2019 Dec.37徳島産すだち輸出倍増計画てんまつ記 SPOT

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