2019年11月号 Vol.55 No.8
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る、自分自身の言葉に対してもだんだん自信が持てなくなってきてしまいます。「聴く」というのは決して受け身なことではありません。相手に話をさせてあげる、相手の話をサポートするといった、とても積極的で能動的なエネルギーの注ぎ方なのです。聴く側のイニシアティブというのは極めて重要なのだと私は考えています。職場では上司が部下を自分の席に呼びつける場面があるかと思います。そこら辺に部下を立たせておいて、ずっと書類に目を落としっ放しで、「それどこまで進んでいるわけ。」「だったら、それでいいじゃない。じゃあご苦労さん。」というケースもあるでしょう。なぜ書類に向かって話をするのでしょうか。相手のほうを見ながら、アイコンタクトも取りながら、「相づち」「頷き」「繰り返し」を行うのと、そっぽ向いているのとでは全然違います。目の前に人がいるのに、その人があたかもいないように接することを漢字四文字で「傍若無人」と書きます。返り点を振ると「傍らに人無きがごとし」です。目の前に人がいるのに、その人があたかもいないように接するというのでは組織のポテンシャルを引き出すことはできない。本当に優秀な部下が大勢いるわけです。この人たちの素晴らしいポテンシャルを引き出していくことこそが、役職者である皆さんの仕事なのです。本当に大切な一人一人の可能性とか自発性とかポテンシャルを引き出すためにも、アクティブリスニングを徹底して実践していただきたいと思います。5. 質問のスキル「ヒーロー・インタビュー」「聴く」ことが一番大事で、2番目に大事なことが「質問」です。質問と似て非なるものとして、「詰問」というのがあります。詰めて問うと書いて詰問、この代表的なものとして「反語」というのがあります。なぜ詰問とか反語表現というのが生まれるかというと、その心理的なメカニズムは、仕返しだと言われています。つまり、人間は社会的な動物なので、他者、相手に対して期待を持っています。この人はこうあってほしい、こう考えてほしい、こういう行動のパターンを取ってほしい、その期待が裏切られたときに、非常に悔しい、残念だという思いで胸がいっぱいになる。だから、相手にも残念な思いを味わわせたい。そうすると相手の心を傷つけるような「反語」、「詰問」というのが発生する。それは家庭だけではなくて職場でもあり得るのだと思います。「大体お前何回言ったら分かるんだ。」というのは、別に何回という回数を聞いているわけではないですよね。言いたいメッセージは「私はあなたに対して高い期待を持っています。この件に関して私は既に2回同じ注意をしました、それにもかかわらず、今回もまたこういうミスが発生したことを私は大変残念に思っています。今度こそこの注意を守ってこの仕事をちゃんとやってくださいね。」ということです。こう言いたいときに、「何回言ったら分かるんだ。」という怒った言い方はお勧めしません。大事なのは、詰問ではなく、引き出す質問をしようということです。引き出す質問の代表が「ヒーロー・インタビュー」です。よく、野球の試合が終わった後で、その試合の中で一番活躍した選手をお立ち台の上に上げて、アナウンサーがマイク向けます。「放送席、放送席、7回裏に決勝ホームラン放った○○選手でした。おめでとうございます。」とやりますよね。これをこれから皆さんにやっていただきます。インタビュー側がやることは二つ、「傾聴」と「質問」です。「傾聴」するに当たっては「相づち」「頷き」「繰り返し」はすごく役に立ちます。人間にはそもそも質問力というのは先天的に備わっている。その証拠に小さな子供は質問の天才で、別に学校で質問のやり方なんて教わったことないのに、「ねえねえ、これ何、これどうするの。」と質問ができる。しかし、だんだん成長するに従ってその質問力を手控える傾向がある。「お前そんなことも知らないのか。」なんて言われたくない。大勢の前では手を挙げるのが恥ずかしい、などといろいろな心のブレーキが働いて、質問力を発揮しなくなってしまうものです。しかし、今日は思いっきり質問力を行使していただきたいと思います。インタビュアーの方、間違っても無表情、無反応でインタビューしないようにしてください。「相づち」 ファイナンス 2019 Nov.71夏季職員トップセミナー 連載セミナー

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