2019年11月号 Vol.55 No.8
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これは一方通行の「指示命令」です。軍隊の司令官をコマンダーと呼び、一つ一つの発する命令をコマンドというのです。軍隊では命令したら人は動きます。それはなぜかと言うと、命懸けだからです。米国の心理学者であるマズローは人間の欲求を5段階の階層で理論化しました。この欲求5段階説の一番下の基本的・本能的な欲求である「生存欲求、生理的欲求」のところに関わることなので、命令したら人は動きます。しかし、平和な時代、平和な社会、平和な組織の中では、命令したところで自動的に人が動くという保証はありません。何らかのレベルの自発性を引き出さないと人は動かない。これがコーチングの原点であり、ティーチングと対比した説明になります。ティーチングが「教え込む」ことであり、外から内へのベクトル、コマンディングも外から内へのベクトルであります。これに対してコーチングというのは、内から外へと「引き出す」ベクトルです。ティーチングは「教え込む」、コーチングは「引き出す」のです。これは大きな違いです。では何を引き出すのでしょうか。可能性、自発性、アイデア、やる気、責任感などいろいろあります。ただ、代表的なものとしてこの二つ、すなわち「可能性を引き出すコミュニケーション」と「自発性を引き出すコミュニケーション」、これがコーチングだと定義しておきましょう。(3)ポテンシャルを引き出す本日は、皆さんのポテンシャル、潜在力を引き出すお手伝いをしたいと考えています。財務省であれば、日本の未来の青写真を描き、日本の国をよくしていこう、というワクワクする気持ちを引き出し、気持ちが盛り上がったときに、これまで以上のポテンシャルが発揮されるのです。しかし、そういった気持ちの盛り上がりは、そもそも上意下達ではできないのです。予算をつくるときに主計局で夜遅くまで侃々諤々議論をする。その中で、気持ちが盛り上がれば、面白い意見やアイデアがどんどん生まれるでしょう。しかし、仕事の仕方が変わって、みんな黙々とPCで作業するようになり、隣の人とのコミュニケーションもどうしても薄くならざるを得なくなりました。だからこそ、職場の中のコミュニケーション、チームのコミュニケーションというのを意識して増やしていく必要があるのです。そのための起爆剤として、コーチングというのを活用いただけるといいなと思います。3.傾聴のスキル(1)聴く力が人間力それでは、どういうコミュニケーションが必要なのでしょうか。それは、指示命令ではありません。一番重要なのは「傾聴」です。聴く力が人間力だということです。そして、聴く姿勢を持っていても、質問の仕方が下手だと相手は話しません。話さないと聴く力が発揮できません。「傾聴」以外にも「承認の力」「褒める」「叱る」というものがあります。ほかにもいろいろありますが、こういうさまざまなコミュニケーションスキルを駆使して、人間の持っている可能性、自発性を引き出していくのがコーチングです。繰り返しになりますが、何と言っても重要なのが「傾聴」のスキルです。しかし、この聴くというのがなかなか難しく、奥が深い。話をするときには自分のリズム、自分のペース、マイペースで話をすることができます。しかし、聴くのは、マイペースではなくて、話し手のペースに合わせて聴くことが求められます。(2)男性は話を聴くのが苦手?特に男性は話を聴くのが苦手という説があります。「話を聞かない男、地図が読めない女」の著者であるアラン・ピーズは男性と女性では、コミュニケーションに対して求めている要求が違っていて、「女性は共感欲求、男性は有能性の証明欲求」を求めていると唱えています。女性に強いのは共感欲求で、その日あったことは時系列的に話す。「あなた、聴いてよ」と、直接話法で再現する。相手は最後まで共感しながら聴くということが重要になります。ところが、男性はなかなかこれができない。男性がコミュニケーションに対して求めている欲求は、共感欲求ではなくて、有能性の証明欲求、つまり「俺は有 ファイナンス 2019 Nov.69夏季職員トップセミナー 連載セミナー

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