2019年11月号 Vol.55 No.8
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Prot(収益性)を表す変数としては、EBITDA*17/ 総資産を用いる。DefaultProb(債務不履行確率)を表す変数としては、倒産確率指標*18(SAFダミーB、C、D)およびカバレッジ比率(営業利益 / (支払利息+割引料))を用いる。カバレッジ比率は営業利益で利息および割引料の負担をどの程度賄えているかを表しており、仮にカバレッジ比率が1を下回れば、営業利益で利息負担を賄えていないことになる。カバレッジ比率については、細野・滝澤・内田・蜂須賀(2013)などに倣い、2未満の場合に1を取るダミー変数(低カバレッジダミー)とする。Leverage(レバレッジ)を表す変数としては、簿価ベースのレバレッジ比率(負債 / 総資産)を用いる。レバレッジ比率の高い企業は、財務上のリスクを抱えているといえる。Collateral(担保提供能力)を表す変数としては、固定資産比率(対総資産)を用いる。これは、不動産や工場設備といった、担保として適格とされやすい資産の保有状況を表す。ManageOwn(経営者による株式保有)を表す変数としては、総発行済株式数に占める役員持ち株比率を用いる。これは、経営者の利害と株主の利害の一致の程度を示す指標として採用する。3-2.推計結果図表1において、外部資金調達総額に占める新規借入、社債発行、株式発行の割合に関する固定効果モデルの推計結果を示している。まず、Size(規模)を表す変数として、総資産の係数を見る。係数は、借入に対して有意にプラス、株式に対して有意にマイナスである。情報の非対称性についての仮説に従うと、規模の大きな企業ほど情報の非*17) EBITDA=税引前利益+特別損益+支払利息+減価償却費。企業の収益力を測る指標のひとつとされる。*18) SAFは、白田(2003)に基づく格付けの代理変数。SAFの値が小さいほど、倒産確率は高くなる。SAFは以下の式によって算出され、4つのレベルに従ってSAF値を分類、SAF値が各レベルの範囲内に収まる場合に1となるダミー変数を設定する。SAF算出方法は、以下の通りである。 SAF=0.01036X1+0.02682X2-0.06610X3-0.02368X4+0.70773 X1:総資本内部留保利益率(%)=期首期末平均内部留保利益÷期首期末平均総資産×100 X2:総資本税引前当期利益率(%)=税引前当期利益÷期首期末平均総資本×100 X3:棚卸資産回転期間=期首期末平均棚卸資産×12÷売上高 X4:売上高支払利息率(%)=支払利息割引料÷売上高×100 ダミー分類基準  SAF A 1.44<SAF値    優良圏内 SAF B 0.9<SAF値<1.44 安全圏内 SAF C 0.7<SAF値<0.9  倒産要注意 SAF D SAF値<0.7     倒産可能性大 本稿の分析においては、SAF Aを基準とし、説明変数にSAF B~SAF Dダミーを用いる。*19) 嶋谷・川井・馬場(2005)は、2001年以降、低格付け企業が株式発行を選択する確率が上昇していることを示している。また、細野・滝澤・内村・蜂須賀(2013)においても、倒産確率が高いとされるSAF Dランクと低カバレッジダミーの両方で、株式に対してプラスに有意な結果を示している。対称性が軽減され、公開市場からの資金調達を優先すると考えられるが、結果は仮説と整合的でないものとなっている。次にGrowth(成長性)変数について見る。PBRと有形固定資産伸び率は、借入、社債、株式のいずれに対しても有意な結果とはならず、研究開発費についても社債に対してわずかに有意にプラスを示すのみとなった。売上高伸び率に関しては、社債、株式に対して有意にプラスの結果を示した。これは、超過収益の事後的分配を避けるために銀行借入以外を選択する、「銀行借入のホールドアップ問題」と整合的である。Prot(収益性)変数であるEBITDA / 総資産は、借入に対して有意にマイナス、株式に対して有意にプラスを示す結果となっている。これは、収益性の高い企業、すなわち質の高い企業は公開市場からの資金調達を優先するとする仮説と整合的な結果となっている。DefaultProb(債務不履行確率)変数を見ると、SAF B、C、Dのいずれも、借入、社債、株式のそれぞれに対して有意な結果とはならなかった。低カバレッジダミーについては株式に対して有意にプラスの結果となっている。これは、資金繰りが厳しく第三者割り当て増資を行う企業が含まれている可能性が考えられる*19。Leverage(レバレッジ)を表すレバレッジ比率に関しては、借入、社債、株式のすべてに対して有意にプラスの結果を示しており、係数を見ると、特に借入および株式に対して数値が大きくなっている。これは、財務上のリスクを抱える企業が銀行借入を優先する「再交渉仮説」、負債比率が最適水準を超えると株式発行を行うとする「最適資本構成の理論」を一定程度支持するものといえる。また、Collateral(担保提供能力)の変数である固定資産比率は、借入、社債に対してプラスに有意な結 ファイナンス 2019 Nov.65シリーズ 日本経済を考える 94連載日本経済を 考える

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