2019年11月号 Vol.55 No.8
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3.資金調達手段選択に関する実証分析3-1. 2002年以降の東証一部上場企業の資金調達行動に関する実証分析本節では、2002年以降、東証一部に上場していた企業を対象として、企業の事前特性と資金調達手段選択の関係を分析する。分析に使用する資金調達データ、各種財務データについては、日本経済新聞社が提供するNikkei Financial QUESTから取得した。分析対象は、2002年から2018年に東証一部に上場しており、借入、コマーシャルペーパー(CP)、社債または株式による資金調達を行っている企業である(保険・証券・銀行などを除く)。借入は、銀行借入だけではなく、ノンバンクや関連会社等からの借入金を含む。社債については、日本国内で発行された社債だけではなく、海外で発行された社債も含み、社債・借入・株式の発行額は各企業における決算年度内の合計額である。本稿ではパネル・データを用いた分析を行っている。パネル・データとは、複数の個体を複数の時点にわたって観測したデータである。本稿では分析対象となる企業の決算年度ごとのデータを取得し、同一企業でも違う決算年度の場合は別データとして扱い、そこから外れ値等を除外したうえで*15、延べ33,822企業をサンプルとする。分析にあたっては、以下の固定効果モデルを推計する。固定効果モデルとは、前述したような、複数の分析対象を複数の時点にわたって観測したパネル・データの分析に用いられる手法のひとつである。分析対象(本研究では各企業が該当する)ごとに、時間を経ても変化しない個別の特性がある場合に、その個別の特性がもたらす効果(固定効果)を消去して、比較・分析することができる。以下の推計式においてはαiが固定効果を表す。*15) 外れ値等のサンプル除外のため、以下の処理を行う。推計に必要な各変数の値が入手できなかったサンプルを除外。PBRの値が上位・下位0.5%のサンプルを除外。借入・社債・株式発行額がマイナス値のサンプルを除外。カバレッジレシオがマイナス値のサンプルを除外。役員持ち株比率が1以上のサンプルを除外。12か月決算以外のサンプルを除外。*16) 株価純資産倍率。PBR=株価÷一株当たりの純資産。時価総額を純資産で割ったものと言い換えることもできる。推計式(固定効果モデル:新規借入額の場合)LoanitExternalFinanceit=αi+β1Sizeit-1+β2Growthit-1 +β3Protit-1+β4DefaultProbit-1 +β5Leverageit-1+β6Collateralit-1 +β7ManageOwnit-1 +yeardummyt+εit上記推計式は、被説明変数をLoan / ExternalFinance、すなわち「外部資金調達総額に占める新規借入額の割合」とした場合の式である。添え字i, tはそれぞれ、企業、年のインデックスを表す。説明変数Size, Profit, Growth, DefaultProb, Leverage, Collateral, ManageOwn, yeardummyはそれぞれ、規模、収益性、成長性、債務不履行確率、レバレッジ、担保提供能力、経営者の株式保有割合、年ダミーを表す。各説明変数の係数βは、各説明変数が被説明変数に対して与える影響の大きさを表しており、係数が大きいほど与える影響の度合いも大きくなる。つまり、例えばβ1の値が有意に大きければ、企業の規模が大きくなるほど資金調達に占める新規借入の割合も大きくなる傾向にあることを意味する。また、係数の符号が負(マイナス)の場合は、被説明変数に対してマイナスの影響を与えることを意味している。上記のような分析を、被説明変数が、社債、株式発行の場合についても同様の推計式により分析し、計3パターンの推計式により分析を行うこととする。以下、各説明変数の詳細について説明する。Size(規模)を表す変数としては、総資産を用いる。規模の大きな企業ほど情報の非対称性が軽減されると考えられるため、情報の非対称性の小ささを表す代理変数として総資産を採用している。なお、分析に際しては対数値を採用する。Growth(成長性)を表す変数としては、PBR*16、売上高伸び率(対前年比)、有形固定資産伸び率(対前年比)、研究開発費 / 売上高を用いる。64 ファイナンス 2019 Nov.連載日本経済を 考える

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