2019年11月号 Vol.55 No.8
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海外で広がる植物肉ブーム・食を通じた健康意識の高まりは世界でも同様であり、オーガニック食材やグルテンフリー穀物などはその代表例である。そして現在、大豆などの植物性タンパク質を肉状に加工した植物肉が注目されている。・植物肉が注目されている要因として、栄養価の高さが挙げられる。例えば、牛肉と比較すると鉄分や葉酸などが豊富に含まれている(図表7)。また、人・社会・地球環境への配慮を重視するエシカル消費の流行や、菜食主義者や準菜食主義者などの増加も、植物肉が注目される大きな要因だろう。・植物肉を中心とする代替肉の市場規模は2018年現在で約4,800億円とされており、5年後には6,700億円になるとも予想されている(図表8)。・従来より動物肉の消費量が多い米国では特に植物肉への注目度が高く、すでに設立10年未満の企業が小売店や大手飲食チェーンなどを通じて植物肉の供給を進めている(図表9)。図表7 栄養素の比較Impossible BURGER(100g)輸入牛肉(100g)03570タンパク質カルシウム鉄分カリウムビタミンB1ビタミンB2ビタミンB3ビタミンB5葉酸亜鉛食物繊維(%、1日の推奨摂取量に対する割合)(注)「Impossible Foods」公式HP、文部科学省「日本食品標準成分表(肉類)」、厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2015年版)」より筆者作成。図表8 代替肉の市場規模(世界)024682023201820172016(千億円)年平均6.8%の増加予想図表9 植物肉に取り組む企業BeyondMeat(米国)設立年2009年売上高$107.5 million(2019.1~2019.6)事業内容植物由来の人口肉の生産・販売を行う。スーパーマーケットやホテル、大学などで販売されている。提携先KFC、Trifectaなど商品の特徴遺伝子組み換え作物、グルテンなどは不使用。ImpossibleFoods(米国)設立年2011年売上高未上場のため不明事業内容植物由来の人口肉の生産・販売を行う。すでに巨大ハンバーガーチェーン複数社で導入されている。提携先Burger King、White Castle、Qdobaなど商品の特徴独自技術の大豆レグヘモグロビンで肉汁を再現。(注)各種報道資料より筆者作成。日本の食文化と植物肉の親和性・栄養面が注目される植物肉だが、強みはそれだけではない。牛肉1.0kgの生産には大豆換算で約5.3kgの飼料が必要となることから、植物肉は生産効率が高いと言える(図表10)。・一方、家畜が排出するGHG(温室効果ガス)は、国内の農林水産業におけるGHG排出量の約3割を占めるなど、相応の影響を環境に与えている(図表11)。大豆の栽培時にもGHGは排出されるが、生産効率を踏まえれば家畜の育成時の方が影響は大きい。・日本は肉消費が増加傾向だが、消費対象が動物肉か植物肉かで栄養面・環境面への影響は変わるだろう。・調査によれば、大豆製品は日本文化に根差しており、植物肉が広がる基礎はすでにあると考える(図表12)。将来的に植物肉が日本にも広がり、人々の健康志向に応え、かつ環境保全にもつながることを期待したい。図表10 肉1.0kgを生産するのに 必要な飼料(大豆換算)(注)農林水産省「知ってる?日本の食料事情~日本の食料自給率・食料自給力と食料安全保障~」、FAOSTATより筆者作成。06(kg)24鶏豚牛卵図表11 農林水産業のGHG排出量2016年度排出量5,061万t(CO2換算)燃料燃焼由来34%稲作由来27%家畜由来27%その他12%図表12 タンパク質摂取 のために摂ろうとしている食品255075大豆製品乳製品肉類魚介類卵類(%、複数回答、2017)0100(出典)農林水産省「食料需給表」「畜産環境をめぐる情勢」、総務省「家計調査」、厚生労働省「人口動態統計」、日本生命保険相互会社「インターネットアンケート」、Markets and Markets「Global Forecast to 2023」、不二製油グループ本社株式会社「食への意識に関する調査」 (注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。 ファイナンス 2019 Nov.59コラム 経済トレンド 65連載経済 トレンド

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