2019年11月号 Vol.55 No.8
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てしまったケースはあるが、それは当初意図していた国際収支上のギャップ解消が実現しなかったということである。財務面からのIMF支援プログラムの審査筆者の勤務する財務局のエコノミストの主要な役割の一つは、先述したIMF資金利用の原則に基づく貸出ルールに基づき、各国担当が起案する個々のプログラム及び資金計画の審査を行うことである。基本的に、プログラム承認時や定期的なプログラムレビュー時に、担当チームが現地に交渉に向かう前と後に審査が行われ、書面コメント及び会議で担当チームと協議を行う。プログラムの審査を総括する戦略政策審査局による取りまとめの下、財務局は主に、協定と整合的なIMFの資金利用やIMFのリソースに対するセーフガードを確保するため、資金支援の計画に関し、十分に強度のある有効な経済プログラムとなっているか、アクセス額(貸出額)や貸出スケジュールは適切か、将来の資金返済能力は十分か、といった観点から審査を行う。具体的エピソードは記述することができず少し抽象的になってしまうが、様々な異なる状況下のプログラムから自分なりに得た審査における基本的な考え方を紹介したい。[十分に強度のある有効な経済プログラムとなっているか?]まず、IMFの資金利用は、根本的に何により正当化されるのか。上記協定にもあるとおり、IMFの貸出の直接の目的は、借入国の国際収支上の資金ギャップへの対応でなければならない。資金ギャップは、債務借り換えの困難や、主要交易産品の価格下落、金融セクターの棄損など、各国の経済構造に応じた様々な原因で発生する。しかし、例えば政府部門が赤字というだけではIMFの資金利用は正当化できないし、たとえ民間部門含めた国全体で経常赤字が存在していても、その分を海外からの資本流入や援助でまかなえている限りは問題はない。さらに、一見資金繰りが厳しく見えても、外貨準備を一時的に取り崩している間に、その間に当局が個々の経済構造に応じた短期的な政策対応(金利引上げ、財政収支の改善、実質為替レートの引下げ、需要管理政策による輸入抑制、債務再編等)を進め、不均衡是正に向けた経済調整を完了できる場合は、資金ギャップは現在も将来も存在しないことになる。つまり、経済を破壊しない範囲で国際収支の問題解決に向けた最大限の政策調整を行い、外貨準備の確保も必要最小限に留め、それでも経済に内在する不均衡解消には時間がかかるため一時的に資金不足が生じて国際収支に穴が空かざるを得ない、という状況が予想されて初めてIMFの貸出は正当化される。そのかわり同時に、その“最大限の政策調整”を担保するための十分に強度のある経済プログラムにコミットしなければならない。言い方を変えれば、強度が十分でないプログラムではIMF資金の最適な活用は行われない。IMFからの借入は、例えば、金融の引き締めが足りなければ際限のない資本流出の穴埋めに使われていくかもしれないし、政府の支出削減が行われなければ消費水準を間接的に支え輸入の抑制を阻害するかもしれない。通貨下落圧力がかかる中で固定為替レートを維持している場合は、対外競争力の改善が進まないばかりか、為替レート防御の介入にIMF資金が際限なく使われていきかねないケースもある。上記は例示であり、実際には全ての国に対応する正解、不正解はないが、IMFの資金が最大限効果的に活用されるべく、対外バランス、財政政策、金融政策、金融セクター、構造問題など、各分野の政策とコンディショナリティを点検しながら、総体として調和がとれた、経済や政策が抱える不均衡の解消に有効なプログラムとなっているかを検証する。また、IMFの貸付は、その経済が抱える国際収支上の不均衡の様態に合わせて選択された、一つの特定の類型の資金アレンジメントの下で行われることとなる。個々の詳細には立ち入らないが、アレンジメントの種類により、プログラムの期間、資金の償還期間、コンディショナリティの設定の仕方などが異なっており、当該国が抱える問題解決に向けたプログラム目的に沿った、妥当なアレンジメントが選択されているかも検討を行う。52 ファイナンス 2019 Nov.連載海外 ウォッチャー

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