2019年11月号 Vol.55 No.8
52/90

評者福田 誠杉本 和行 著デジタル時代の競争政策日本経済新聞出版社 2019年8月 定価 本体1,800円+税注目が集まるデジタル時代の競争政策公正取引委員会の競争政策が、ニュースを大きく賑わしている。これは、デジタル時代が到来し、デジタル時代が公正取引委員会の競争政策を求め、公正取引委員会がデジタル時代の求めにしっかりと応えていることが、その背景にある。その公正取引委員会の杉本和行委員長が、本書の著者である。GAFAなどのデジタルプラットフォームビッグデータ、IoT、AIなど第4次産業革命により、「経済のデジタル化」が進み、経済社会は急激に変化した。そして、デジタル経済の基盤であるインターネットは、容易に国境を越え、「経済活動のグローバル化」も大きく進んできている。更に、個人の生活も一変した。人々は、GoogleのAndroidのスマホやAppleのiPhoneを常時携帯し、情報はGoogle検索、買い物はAmazonマーケットプレイスなどのEコマース、友人との対話もFacebookなどのSNSを使っている。GAFAをはじめ、米国を中心とする巨大デジタルプラットフォーム企業は、イノベーションの世界的なリーダーとなり、デジタル経済のルールを決め、「Winner takes all」で一人勝ちとなる一方、日本企業は、フォローワーの立場で、そのルールに従わざるを得ない状況となりつつある。個人の生活にも、「個人情報」の把握などを通じて、踏み込んできている。人々は、国家を超える力を持つとも言われる巨大デジタルプラットフォーム企業が提供する利便性を享受する一方、「the four GAFA 四騎士が創り変えた世界」でも指摘されているように、そうした企業に対する人々の不安感も広がってきている。公正取引委員会杉本委員長の政策展開こうした問題に対して、対処していかなければならないが、そうした中で、大きな役割を果たしているのが、世界の競争当局、日本で言えば公正取引委員会である。その武器となっているのが競争政策、競争法、日本で言えば独占禁止法である。著者は、財務事務次官等を経て、2013年から、公正取引委員会の委員長を務め、「経済のデジタル化」、「経済活動のグローバル化」という時代の変化に応じて、「新時代の競争政策」を本格的に展開している。「デジタル時代の競争政策」に、矢継ぎ早に取り組んできている。本書は、まさに、その政策の当事者である著者が、その時代認識や政策展開について、自らの考え方を示しているものである。本書の内容と特色それでは、本書の内容と特色を順次紹介したい。第一章は、「経済社会の変化と独占禁止法」についてである。「日本経済の構造変化」に対する鋭い洞察が行われ、その上で、競争政策との関係が語られているが、日本経済の戦後史ともなっている。そして、現下の日本経済が抱える問題点、生産性向上や経済成長の実現方策も明らかにしている。「競争なくして成長なし。」人口構造の少子化・高齢化が進む中で、先進国へのキャッチアップが終了し、新興国からの追い上げをまともに受けることになった日本経済にとって、生産性の向上や経済成長を果たす鍵は、飽和・成熟化した既存の財・サービスへの需要ではなく、新たな需要を作り出す、供給サイドの「イノベーション」であるとする。イノベーションを促すのは、「競争」であるとする。更に、「競争」は、「イノベーションの促進」だけでなく、「消費者利益の確保」や「所得の不均衡の是正」につながるものであるとする。そこには、経済社会制度全体への構想がある。第一の特色は、デジタル経済や競争政策について、それを単体で論じるのではなく、経済社会の全体像の構図の中で、日本経済やイノベーションに対する鋭い洞察と歴史観の下、描き出していることである。48 ファイナンス 2019 Nov.FINANCE LIBRARYファイナンスライブラリーライブラリー

元のページ  ../index.html#52

このブックを見る