2019年11月号 Vol.55 No.8
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(1) 『源氏物語』展 in NEW YORK~紫式部、千年の時めき~ 2019年3月5日~6月16日 会場:メトロポリタン美術館土佐光起筆『紫式部』(部分) 17世紀、石山寺蔵 写真提供:石山寺(Photo by Kanai Morio)かつて、ドナルド・キーンが前号でご紹介したアーサー・ウェリーの名訳、The Tale of Genjiを49セントで買い、ジョー・プライスが伊藤若冲の「葡萄図」の虜になった街、ニューヨークにて、本展覧会は、各国語に翻訳され、国境や世代を越えて愛される『源氏物語』が生み出した壮大な美の世界を紹介。『源氏物語』はそのストーリーが受け継がれてきただけではなく、これまで、小さな画帖や絵巻物・扇面から、大胆な意匠が施された掛軸や屏風まで、あらゆる形で表現され続けてきた。また、物語の有名な場面は、着物や蒔絵箱・化粧道具箱から、駕籠までをも彩り、『源氏物語』を主題にした美術工芸品は膨大。本展覧会では、時代やジャンルを越えて選ばれた優れた作品を通して、『源氏物語』が日本の美術や社会に与えた文化的な影響の軌跡を追い、その華麗な世界を紹介。関連企画として、舞台公演やシンポジウムを通し、千年以上にわたって続く『源氏物語』の伝統をより深く理解する機会を提供。The Tale of Genjiの名前は知っていても、詳しくは知らない一般のアメリカ人に、源氏物語の背景を紹介するとともに、平安時代から現代まで源氏物語のモチーフにした作品をたどることで、日本美術史に果たした役割も伝える試み。入口真正面には、ニューヨークメトロポリタン美術館の大日如来坐像や紫式部が物語を書き始めたとされる大津市の仏具で飾り、紫式部ゆかりの寺の雰囲気を味わう工夫。「夕顔」帖を意匠に施した尾形乾山の茶碗などの作品が展示される中、とりわけ来場者の人気を集めたのはNHK大河ドラマの主役にもなった第14代将軍の妻、篤姫が薩摩からの輿入れの婚礼の際に使ったとされる、外部には物語の蒔絵、内部には源氏絵が施されていた輿。漫画家、大和和紀による源氏物語を題材にした「あさきゆめみし」の原画も出品、ハーバード大の日本美術・文化学のメリッサ・マコーミック教授と公開会談するなど、浮世絵から現代のマンガに至る流れも紹介。21万4000人が入場。地元New York Times は“A Literary Masterpiece, and the Art It Inspierd”、と多数のカラー写真とともに1面で紹介、The Wall Street Journalも“A Story of Reinvention Many ways “The Tale of Genji” has been interpreted over the centuryとして、絵巻から漫画などの多数のカラー写真入りで1ページを割く。(2) 「神道:日本美術における神性の発見」展 2019年4月9日~6月30日 会場:クリーブランド美術館神道について、ライシャワーは「礼拝の対象は、天照大神や氏族の祖先、そのほかの神々ばかりでなく、はるかに広範なものにまで及び、豊穣、自然の驚異や神秘なども信仰された。」という。神道をめぐる美の世界は日本美術の重要な特徴の一つ。本展覧会は、平安時代から江戸時代にかけての、神道にまつわる絵画や彫刻作品、神道の祭祀に使われた面や装束などおよそ125点を一堂に集めて紹介し、優れた美術品を通じて日本固有の神性を紐解き、その不思議な魅力を伝えていく。神を祀り尊ぶ際に使われた宝物・祭具や藤原家の氏神である春日神信仰に関連した美術品など、日本と米国の双方から魅力的な絵画・彫刻・工芸品を集め、神道というテーマの中でバラエティに富んだ展覧会を目指す。2016年米大統領選挙、トランプ大統領の支持層の多かったラストベルト。北米有数の日本美術コレクションのあるオハイオ州、クリーブランド美術館では、米国で43年ぶりの神道をテーマにした大規模な展覧会。同美術館によると「神への畏敬は、育成期にもわたり日本美術に影響を与えた。神道と仏教の融合で生み出された宗教芸術のすばらしさを紹介したい」40 ファイナンス 2019 Nov.SPOT

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