2019年11月号 Vol.55 No.8
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税務こぼれ話(1) 国税組織の隠語国税組織には様々な隠語が存在します。税務職員は国民の様々な情報を取り扱うため、通常の公務員より重い守秘義務が課されており、日常会話から税務職員と悟られないように隠語が使われています。最も有名な隠語は「マルサ」でしょう。査察部の査にマルをつけて「マルサ」と呼んでおりましたが、今では有名になりすぎて逆に使われなくなってしまいました。本稿でもあまり隠語を紹介しすぎると、業務に支障がでてしまうかもしれませんので、ほどほどにしておきたいと思いますが、「税務署」や「署」のことを、公共の場で口に出すのは、税務職員の本能として控えられている傾向にあり、「会社」と呼ぶことが多いと思います。家でも「カイシャ」「カイシャ」というので、息子や娘には会社員だと思われているというようなケースもあります。税務職員は、家族にも調査や仕事の中身を話すことができず、それだけ重い守秘義務を負っています。もう一つだけ隠語をご紹介します。「署長」は「おやじ」と呼ばれています。地域によっては、「おやっさん」だったり「おとうさん」だったりします。署長は、署の大黒柱であるということを含意しています。私の場合、年も若く、むしろ職員の息子くらいの年齢であることもあったので、着任して当初はあまり「おやっさん」と呼ばれることはありませんでした。仕事のやりとりも増えてきて、職員から「この前、おやっさんと相談した件ですが…」という風に、自然と「おやっさん」と呼ばれるようになり、果たして、自分が「おやっさん」として職務を全うできているか、身が引き締まる思いになりました。税務こぼれ話(2) 「脱税」とは何かまず、「脱税」というのは、国税通則法に定められた用語ではありません。メディアが報じるときに、「脱税」「所得隠し」「申告漏れ」という言葉が用いられますが、これらはいずれも国税通則法に定められた言葉ではありません。メディアの記事の用例を見ると、「脱税」は査察調査が入って刑事罰が科されるときに、「所得隠し」は不正事実によって税金を免れたときに、「申告漏れ」は不正事実はないものの結果として税金を免れたときに、それぞれ使われているようです。脱税・所得隠しと申告漏れを分ける分水嶺は、「不正事実」の有無になります。「不正事実」とは、事実の全部又は一部を隠蔽又は仮装することをいいます。例えば、二重帳簿をつけて利益が出ていないように偽ったり、売上伝票を破棄して売上を圧縮したりした場合、「不正事実」がある場合にあたります。不正事実がある場合は、ペナルティとして重加算税(35%~)が賦課されることになり、延滞税も合わせると重い制裁となります。不正事実がなくても、税務調査によって申告漏れが発覚した場合は、過少申告加算税や延滞税などのペナルティが発生します。税務申告書の作成には、専門知識が必要となる場合もありますので、申告内容が不安な場合は、税務署か税理士に相談することをお勧めします。税理士は、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念に沿って、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とした者であり、身近な税務の専門家です。税務こぼれ話(3) お酒と税財務省設置法には、国税庁の任務について「内国税の適正かつ公平な賦課及び徴収の実現、酒類業の健全な発達及び税理士業務の適正な運営の確保を図ること」と定められています。「酒類業の健全な発達」という他の並びとは一見合わないような任務が課せられています。お酒と税の歴史は古く、酒税は室町時代の頃からあったと言われています。室町時代において、酒造業は最大の産業の一つであり、幕府の重要な収入源の一つでした。近代においても、酒税は重要な役割を果たしています。明治30年代には日露戦争を契機に、戦費をまかなうべく、酒税が国税の税収第1位となった時代となりました。地租よりも所得税よりも、酒税の税収の方が多い時代があったのです。このような歴史から、酒類業については国税庁の所管となっており、酒税とお酒の免許に関する職務を行う「酒類指導官」や、酒類製造者の製造技術や品質管理技術の向上などを行う「鑑定官」という役職の方々 ファイナンス 2019 Nov.31税務署の将来―新米税務署長からの提言 SPOT

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