2019年11月号 Vol.55 No.8
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ますが、税務行政をめぐる環境は厳しいものとなっています。〈あるべき税務署の将来像〉「正直者には尊敬の的、悪徳者には畏怖の的」ハロルド・モス氏が国税庁に贈ったこのスローガンを追求していくためには、人手不足・税務行政の複雑困難化という課題を克服していかなくてはなりません。私は、その課題の克服のためのカギとなるのが、ICT技術だと考えています。税務署の中には、必ずしも人の手でやる必要のない仕事が山積しています。先ほどご紹介した地方公共団体とのシステム連携もその例の一つです。確定申告の忙しい時期に、税務署の職員が管内の地方公共団体を車で巡回して、紙の確定申告書を一件一件回収し、申告書の原本を税務署に持ち帰ってスキャンで読み取り、スキャンの読み取りエラーを人の目で修正する、というやり方が、果たしてこの令和の時代に必要なのだろうかと考えさせられました。優秀な税務職員が、令和の時代に重いショルダーホンを背負わされているかのようでした。現代では、大量反復の作業をプログラミングで解決するRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)という技術が進んでおり、一部の自治体などでも採用されています。このような技術の導入によって、少しでも税務の現場を支えられたらと考えています。ICT化がどこまで進んでも、税務職員が不要となることはありません。税務行政は、納税者一人一人と向き合うことが必要であり、AIに完全に代替させることは不可能です。AIやプログラミングは大量のデータを読み込み、選択肢のもっともらしさや確率を算出することまではできます。しかし、その先の価値判断については、税務職員の深い知識と豊富な経験、そして、現場での対応力や人間力が必ず求められます。ICTの波にのまれることなく、ICTの波に乗ることが、現代の国税組織に求められています。5むすびに私が国税組織に感銘を受けたのは、入省して3年目に仙台国税局に出向したことがきっかけです。仙台国税局では調査課に配属になり、調査官として様々な企業の税務調査を行いました。私が調査先の企業と侃々諤々の議論を行っている様子を、温かく見守っていただいた当時の上司の方々には、税務職員としての心構えを教えていただきました。また、様々な部署に併任する機会を得て、滞納処分の現場や、査察の強制捜査の現場、無予告調査の現場、被災者の方々の申告相談も経験することもできました。当時の上司の方々には、今でも温泉巡りや芋煮会でお世話になっております。仙台国税局当時お世話になった皆さまに心から御礼申し上げます。署長として赴任した大阪国税局では、仕事に対する熱い思いを持った方が多く、国税組織の底力を思い知らされました。自ら考え、自ら実行するエネルギーのある職員の方々に圧倒され、良い刺激になりました。国税局の方々とのディスカッションによって、税務署という立場を超えて、国税組織全体について在り方を考えることができました。また、他署の署長の方々とも、非常に多く意見交換することができました。各署独自の取組みについて勉強することができ、署務運営を行う上で大変勉強になりました。大阪国税局の皆さまには、公私問わず大変お世話になりました。誠にありがとうございました。最後に、平成30事務年度に近江八幡税務署に勤務した職員・非常勤職員の皆さま、本当にお世話になりました。特に統括官の皆さま、不慣れな署長でご迷惑をおかけしました。皆さまのおかげで何とか一年務めることができました。「むすびに」を書くにあたり、多くの方々の顔が浮かびましたが、お名前を全て列挙しようと思うと、とても列挙しきれないので、残念ながら個々のお名前は省略させていただきます。その中でも、一年間、労苦を共にした池田総務課長(現大阪局個人課税課課長補佐)には、改めて心から謝意を表したいと思います。現在、私は、個人情報保護委員会事務局に出向しており、個人情報保護法の改正作業を担当しております。全く畑違いではありますが、国税で学んだ行政機関の執行のプロセスに関する知識は、今の職場でも活きています。国税組織には感謝の気持ちでいっぱいです。※ 本稿の内容及び意見は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する(した)組織の見解を示すものではない。また、あり得べき誤りはすべて筆者に帰すものである。30 ファイナンス 2019 Nov.SPOT

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