2019年11月号 Vol.55 No.8
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体が作成した確定申告書のデータを、紙に印刷して税務署に持ち込むこととなっています。せっかく地方公共団体でデータ化されている確定申告書が、税務署に持ち込まれる時には紙になってしまうため、税務署の職員は紙をスキャンして、データに入力をする手間が発生しています。紙をスキャンするのには時間がかかりますし、その分、納税者の方々に還付金をお振り込みするのが遅れてしまうことになります。また、大量の確定申告書を紙で移送するため、万が一紛失があれば個人情報の漏えいにつながり、大きなリスクがあります。現在、多くの地方公共団体において、システム改修の検討が進められております。私も、この問題を解決するべく、市長さん、町長さんをはじめ、地方公共団体の方々に、着任当初から積極的に働きかけを行いました。システム改修のためには、一時的に費用や労力がかかってしまうのですが、「データ→紙→データ」の非効率を改善するべく、署長の立場で市長さん、町長さんに直談判してまわりました。幸い、近江八幡管内の自治体の方々は、システム改修に理解を示してくださっており、前向きに検討が進められております。一部の自治体では、私の任期中にシステム改修に対応していただくことができました。税務署長は、署の顔であり、対外交渉官でもあります。4税務署の将来あるべき税務署の将来像について、新米税務署長として個人的な見解を述べたいと思います。〈税務署が抱える課題〉税務署が抱える最も大きな課題は人手不足です。この20年間で、税務行政の専門性が増して仕事が困難になる一方、定員数は削減傾向にあります。背景には、日本経済をめぐるこの20~30年間における、3つの大きな変化があります。一つ目の変化は少子高齢化です。子どもの数が少なくなり、人口全体が高齢化したため、働き手の数が減少しました。それに伴って、公務員全体の数も抑制されるようになり、国税組織の定員数も削減傾向にあります。平成9年の国税庁の定員は、57,202人でしたが、平成30年には55,724人と1,478人の定員が減少しました。近江八幡税務署約40署分の定員が減少したのです。二つ目の変化はICT技術の発展です。昭和60年に発売された日本初の携帯電話「ショルダーホン」は、その名の通り、肩からかける巨大な電話で、とても高価なものでしたが、令和の現代においては、携帯電話は片手に収まるスマホへと進化しました。ICT技術の発展の端的な現れと言えるでしょう。三つ目の変化はグローバル化です。平成元年、ソ連のベルリンの壁が崩壊し、東西冷戦の象徴が壊されました。東西陣営に分断されていた世界の統合が進み、ヒト・モノ・カネ・情報が自由に世界を動き回るようになり、グローバル化が進みました。ICT技術の発展とグローバル化により、人々の経済活動が複雑・活発になり、それに伴って、税務行政も複雑・困難化しました。税務調査や滞納処分を行うため、ICTと国際取引に関する知識が不可欠となる時代となりました。一件一件の事務処理に時間を要するようになったのに対して、定員が減少し、国税組織における人手不足は深刻な課題となっています。顕著に数字に現れているのが、法人の実地調査率の低下です。実地調査率は、全対象法人のうちどのくらいの割合で税務調査が行われているかを示す数字です。平成元年には8.5%あった法人実地調査率は、平成29年には3.2%へと低下しました。約12社に1社行われていた税務調査が、この30年間で、約31社に1社となってしまったのです。税務調査の頻度が低下することによって、正直者が馬鹿を見るような事態になってはならないと、職員の個々の努力によって、税務調査の質が高められており小寺・衆議院議員と小椋・東近江市長と東京で再会 ファイナンス 2019 Nov.29税務署の将来―新米税務署長からの提言 SPOT

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