2019年11月号 Vol.55 No.8
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に飲むお酒が、署長としての一番の醍醐味でした。3署の顔としての税務署長税務署長は署の顔でもあります。税務署と他の機関との関係を良好に保つため、いろいろな場で挨拶をしたり、会議に出席したり、署の顔としての働きが求められます。近江八幡署管内の人口が20万人超であるのに対し、税務署の職員はわずか40数名と、税務署の人員は限られています。市町村や関係民間団体との協調なくして、税務行政は成り立ちません。また、税制はわたしたちの生活の中に溶け込んでいる制度であり、地域の実情を知らずに、紋切り型に法律をあてはめているだけでは、独善的な税務行政になってしまうおそれがあります。地域の実情について、生の声を届けてくださる貴重な存在が、納税協会や納税貯蓄組合です。納税協会は、健全な納税者を志す個人・法人の会員からなり、税務署の所管地域ごとに設置されています*3。納税協会には、地域の有力企業、名士の方々に加入していただいており、税務当局に地域の実情を教えてくださる非常に有難い存在となっています。署長として、納税協会の会員の方々に講演をさせていただく機会が何度かあり、「日本経済の構造的な変化と税制での対応」というテーマで講演をさせていただきました。地域の名だたる経営者の方々を前にどのような話をしたら良いか、講演会の前には頭を悩ませましたし、とても緊張しました。*3) 「納税協会」という名称は、大阪国税局管内特有のものであり、他の国税局管内では、法人会、青色申告会、間税会などと呼ばれています。質疑応答で寄せられる質問はどれも鋭く、「東京一極集中をどう考えるべきか」といった地方創生の観点からの質問や、「MMT(現代貨幣理論)についてどう考えるか」といった時流に合ったトピックなど様々な質問があり、霞が関のオフィスで考えていた理論について、地域の方々と直接意見を交換できる貴重な機会となりました。地域の方々と国の政策について意見交換をした経験は、いまの霞が関勤務でも活きています。〈地方公共団体との関係〉税務署が所管しているのは所得税・法人税などの国税であり、住民税などの地方税については地方公共団体が所管しています。国税・地方税は密接に関連するため、税務署と地方公共団体との協調は不可欠です。特に、確定申告の時期は、近江八幡署管内の市や町に、住民の方々の確定申告相談について、多大なご支援を頂きました。近江八幡署のように、管内の面積が広く、税務署の人員が限られている地域においては、市町の職員の方々の協力なしには、確定申告を円滑に運営することはできません。確定申告の時期は、次々と寄せられる相談に対応するため、税務署の職員も市町の職員も残業時間が多くなっており、かなり心身の疲労がたまりやすい時期です。少しでも職員の負担を軽減するために、作業の合理化が必要となっておりますが、実は、国と地方の連携に一つ大きな課題があります。課題というのは、現状、地方公共団体で確定申告相談を行う際に使うシステムが、国税のシステムと連携していないことが多いのです。その結果、地方公共団苦楽を共にした近江八幡署幹部と一緒に地域の方々との意見交換の様子28 ファイナンス 2019 Nov.SPOT

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