ファイナンス 2019年10月号 Vol.55 No.7
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コラム 海外経済の潮流124大臣官房総合政策課 調査統計官 赤嶺 彰一9月の欧州中央銀行(ECB)政策理事会の決定について欧州中央銀行(以下ECB)は、9月12日に政策理事会(Governing Council)を開催し、経済見通しのアップデートにあわせて追加緩和を決定した。追加緩和は(1)預金ファシリティ金利の引下げ、(2)政策金利に関するフォワードガイダンスの変更、(3)資産買入れの再開、(4)TLTROⅢの条件緩和、(5)超過準備における階層化(tiering)の導入、以上の5点のパッケージとして公表された。本稿では、このECBの9月の決定について整理してみる。(1)について、ECBは政策金利の1つである預金ファシリティ金利を▲0.4%→▲0.5%へと10bps引き下げた。預金ファシリティ金利は、金融機関の資金運用手段の1つである預金ファシリティに適用される金利*1であるが、超過準備の適用金利が「ゼロと預金ファシリティのいずれか低い金利」であるため、超過準備預金にも預金ファシリティ金利が適用されている*2(ただし、後述するように、超過準備の階層化により部分的にマイナス金利が免除される)。(2)について、ECBは声明文とドラギ総裁の記者会見の冒頭発言において、これまで「政策金利は少なくとも2020年上半期まで、現行水準またはより低い水準に維持」としていたフォワードガイダンスを「政策金利は、インフレ見通しが予測期間内で2%に十分に近くそれ未満のレベルにしっかりと収束し、そのような収束が基調的なインフレ動向に整合的に反映されるまで、現行水準またはより低い水準に維持」と変更した。つまり、政策金利の見通しについて期限を明記せず、インフレ見通しに関する条件付きのガイダンスとした。(3)について、2018年12月で停止していた資産買入れは、11月1日から毎月200億ユーロを「政策金利の緩和的な効果を強化するのに必要な限り実施し、*1) 市中銀行が資金の運用を行う際に、最低でも預金ファシリティの利回りは確保できるという意味で、短期金利の下限を構成すると期待されるものである。*2) なお、所要準備については主要リファイナンスオペ適用金利(現行0.00%)が適用されている。ECBの主要金利引上げを開始する少し前に停止する」として、オープンエンドで再開することを表明した。(4)について、2019年9月から開始するTLTROⅢ(貸出条件付長期資金供給オペ)に関し、貸出期間を2年から3年に延長するとともに、10ベーシスの上乗せ金利を撤廃し、条件を緩和した。(5)について、超過準備への適用金利のマイナス幅を深堀りする一方で、超過準備の一部についてマイナスの預金ファシリティ金利から除外する(0%を適用)、2段階の階層化システムを導入した。10月30日以降、所要準備の6倍までの超過準備については、預金ファシリティ金利(マイナス金利)の適用が免除される(倍率については今後政策委員会の判断で変更の可能性あり)。ドラギ総裁は記者会見で、政策変更の理由や変更についての広範なコンセンサスの存在を述べた一方、需要を喚起するため、財政政策が主要な政策手段となるべきとの主張を行った。市場では、ECBの追加緩和決定に対し、ユーロ高、金利上昇と当局の期待と逆に反応したが、それは金融緩和の「打ち止め感」やドラギ総裁による「財政政策が主要な政策手段となるべき」という議論などに対する反応と考えられる。ドラギ総裁の任期は2019年10月末までであり、今後の政策の舵取りはラガルド次期総裁にバトンが渡される。今回の包括的なパッケージの持続性をどのように担保し、欧州の経済・物価動向にどのような影響を与えるのか、引き続き注視が必要である。(注)文中、意見に係る部分は全て筆者の私見である。74 ファイナンス 2019 Oct.連載海外経済の 潮流

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