ファイナンス 2019年10月号 Vol.55 No.7
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外資系企業の動向から読み取れる要因・外資系企業による対内直接投資の動向について、流入・流出の両方の動き(国際収支統計の株式資本の増減)をみると、新規投資や事業拡大(資本流入)が緩やかに増加している一方、撤退や事業縮小といった投資の回収(資本流出)も同程度あり、結果としてネットでの対内直接投資残高の伸びはわずかとなっている(図表7)。・事業撤退する外資系企業は、別の国に事業機能を移転する場合、他のアジア諸国を選択するケースが多い(図表8)。外資系企業にとっては、アジア圏での事業拠点として、日本以外のアジア諸国と比較して直接投資先を判断し、選択していることが窺える。・外資系企業へのアンケート調査によると、日本での事業展開を阻害する要因として、ビジネスコストの高さや人材確保の難しさが挙げられている(図表9)。ビジネスコストについては人件費と税負担、人材確保については英語でのコミュニケーションの困難性を指摘する意見が多い。図表7 株式資本の推移▲5.0▲3.0▲1.01.03.05.020182017201620152014(年)株式資本(実行)株式資本(回収)ネット流入流出(兆円)図表8 事業機能移転先01020304050607080(年度)アメリカヨーロッパアジアその他2012(n=37)2013(n=39)2014(n=24)2015(n=30)2016(n=24)2017(n=31)(社、機能)(注)移転先の地域が複数ある場合は、それぞれに計上。図表9 事業展開を阻害する要因(%)100806040200ビジネスコストの高さ人材確保の難しさ日本市場の閉鎖性、特殊性製品・サービスに対するユーザーの要求水準の高さ行政手続きの複雑さ(注)N=2,593、複数回答。上位5項目を抜粋。対内直接投資拡大の効果と今後の展望・グリーンフィールド投資の拡大は、受入国にとって、雇用創出や設備投資拡大の効果があり、川上・川下に位置する受入国企業の売上拡大効果も考えられる。実際に、日本の外資系企業は、国内企業との取引比率が高い(図表10)。・M&A投資については、外資系企業の持つ技術や経営資源を、国内企業の持つリソースに活用する「スピルオーバー効果」が期待される。近年、日本では、中小企業を含む未上場企業に対するM&Aが増加している(図表11)。後継者不足や国内市場縮小により事業継続が難しい中小企業にとっては、外資系企業の経営資源の活用は、課題解決の一つの手段として位置付けられるだろう。・安全保障関連など直接投資への規制が必要とされる分野はあるが、政府は対内直接投資を後押しする様々な取組を実施しており(図表12)、今後、対内直接投資の効果を最大限に生かしていくことが期待される。図表10 外資系企業の日本に おける取引比率【解説】円が右上の領域に分布していることから、日本における外資系企業は国内での売上、仕入の比率がともに高く、関連する日本企業の売上拡大に寄与する可能性が指摘されている。(注)横軸は国内での仕入比率、縦軸は国内での売上比率、円の大きさは利益規模を表す。卸売業化学生産用機械医薬品業務用機械電気機械情報通信機械輸送機械情報通信業サービス業0(%)(%)20406080100100806040200図表11 OUT-IN投資件数上場企業未上場企業5764871307135423920182017201620150(件)(年)40801201601802060100140(注)買収、資本参加、出資拡大の件数。図表12 主な取組時期事項概要2012年「アジア拠点化推進法」制定グローバル企業の研究開発拠点やアジア本社の日本への呼び込みを推進するため、法人負担軽減、特許料軽減などの措置を講ずる。2013年「日本再興戦略-JAPAN is Back」制定成長戦略の一つとして対内直接投資の増加に言及し、特区制度の抜本的改革、政府の外国企業誘致、支援体制の強化する方針。2015年「外国企業の日本への誘致に向けた5つの約束」を決定対内直接投資拡大に向けて重点的に取組む項目として、外国企業から利便性を阻んでいると指摘が多い言語環境などの事項について改善に取り組む。2017年「規制・行政手続見直しワーキング・グループ」を開催対内直接投資を推進するため、外国企業が日本で投資を行うに際して課題となる規制・行政手続の簡素化について検討し、関係府省庁等と調整することを目的として、規制・行政手続見直しワーキング・グループを開催。2018年中小企業のM&A情報データベースを外資系企業へ開放技術の承継や雇用の確保を確実にするべく、経済産業省が中小企業のM&A情報を集めたデータベースを、中小企業の製品や技術に関心がある外資系企業に開放。(出典)財務省・日本銀行「本邦対外資産負債残高」、「国際収支統計」、The World Bank「Gross Domestic Product」、UNCTAD「World Investment Report」、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社「日本企業の事業売却に関するアンケート調査結果」、経済産業省「外資系企業動向調査」、日経テレコン「レコフM&A情報」、内閣府「INVEST JAPAN」、JETRO「ジェトロ対日直接投資報告 2018」、日本経済新聞 2018.10.17 朝刊 (注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。 ファイナンス 2019 Oct.73コラム 経済トレンド 64連載経済 トレンド

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