ファイナンス 2019年10月号 Vol.55 No.7
76/88

コラム 経済トレンド64大臣官房総合政策課 調査員 葭中 孝/石本 琢日本における対内直接投資の動向本稿では、日本における対内直接投資について、投資形態の特徴や外資系企業の動向を分析し、対内直接投資の効果として考えられる点と今後の展望について考察した。対内直接投資の現状・日本における対内直接投資残高は、2018年末に30.7兆円となっており、「2020年までに対内直接投資残高を35兆円にする」とした政策目標に近づいている(図表1)。・しかしながら、対内直接投資残高の大きさを、他の主要国と比較すると、残高の名目GDPに対する比率は、極めて低い水準にある(図表2)。・対外直接投資残高の大きさは、他の主要国と遜色ない水準となっており、対内直接投資残高の規模の違いが際立っている(図表3)。図表1 対内直接投資残高0(兆円)(年)510152025303540181510052000図表2 対名目GDP比率4.312.036.423.529.766.9イギリスフランスドイツアメリカ中国日本0(%)(注)2018年末。20406080図表3 各国の対内・対外直接投資残高対内直接投資対外直接投資ネット▲10.0▲8.0▲6.0▲4.0▲2.00.02.04.06.08.010.0対内超対外超イギリスフランスドイツアメリカ中国日本(兆ドル)(注)2018年末。日本における対内直接投資の投資形態・直接投資の投資形態は、一般的に、(1)投資先国企業の買収などによる「M&A投資」、(2)投資先国に新たに法人を設立する「グリーンフィールド投資」に大別される。日本における対内直接投資は、2000年代を通じてグリーンフィールド投資が主であり、ここ最近、M&A投資がグリーンフィールド投資を上回るようになった(図表4)。・他の主要先進国と比較しても、日本に対するM&A投資の全体に占める割合は小さい。直接投資への制限が多い中国よりは大きいが、主要先進国と比べると、M&A比率の小ささが際立っている(図表5)。・日本においてM&A投資比率が小さい要因の一つとして、日本企業が外資系企業に対する事業売却に積極的ではないことが挙げられる。日本企業は、経営が悪化しない限り、事業売却を避ける傾向にあり、さらに、事業売却を行う場合であっても、外資系企業ではなく、国内企業に対する売却が望ましいと考える傾向が見て取れる(図表6)。そのため、外資系企業による対内直接投資は、M&A投資ではなく、グリーンフィールド投資が多かったと考えられる。図表4 投資形態別フローM&Aグリーンフィールド2004~0616~1813~1510~1207~09▲50.00.050.0100.0150.0200.00(億ドル)(年)(注)3年ごとの平均値推移。図表5 各国の対内直接投資に 占めるM&A投資残高の割合69%65%63%55%47%16%アメリカフランスイギリスドイツ日本中国(注)2018年末。図表6 日本企業が事業売却先 として望ましいとする事業形態1番目2番目3番目100806040200国内企業日系商社外資系企業政府系ファンド海外プライベート・エクイティ・ファーム国内プライベート・エクイティ・ファーム(%)(注)望ましい事業形態の上位3つを選択。72 ファイナンス 2019 Oct.連載経済 トレンド

元のページ  ../index.html#76

このブックを見る