ファイナンス 2019年10月号 Vol.55 No.7
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さくなっていき、その結果、車や家電など様々な応用がたくさん出てきたフェイズ2、こうしたものがつながりあって複合的なエコシステムができてきたフェイズ3です。こうした大局観で振り返ってみたときに、日本はフェイズ1では何も行っていません。当時、日本では9割以上の人が田んぼを耕していて、残りの人も刀を振り回しており、ついには当時最大の企業であった幕府が“倒産”します。“倒産”後、国をやり直すことになり、いくつかの戦争を経て、フェイズ2でぶっちぎり、最終的には、誰も見たことがない複雑な系の新幹線だとか、ファミコンとかを作ってフェイズ3でも世界を刷新したのです。こうした歴史から分かることは、日本はフェイズ1には参加しておらず、フェイズ2、フェイズ3での勝者であるということです。応用を次々と仕掛け、つなぎ合わせて何かやることで勝ってきた、こういうことが得意な国だということです。イ.フェイズ2とフェイズ3が勝負主たるインターネットサービスが立ち上がってもう25年ほど経っていること、機械学習などの言葉が人口に膾炙しつつあることを見ても、現在、データ×AIに関してはフェイズ1が終わろうとしている可能性が高いと思います。しかし、今のところ、ほとんどの物体なり空間はスマート化、つまりデータ×AI化していません。あらゆる産業のスマート化はこれから一気にやってくるのです。これがデータ×AI世界のフェイズ2になります。今、この流れの中、実社会のものがどんどんアップデートされる過程にあり、実用途側で相当のプレゼンスを持っている日本にとっては大きなチャンスです。ここでうまく進めていくためには、ある種の妄想、夢を描く力が重要となります。あまり意識されていませんが、この妄想力に関し、我が国では相当に長い間、英才教育を行っています。漫画の「ドラえもん」や「攻殻機動隊」をみてもわかるように、妄想の量では他に負けていません。フェイズ2、フェイズ3を見据え、妄想して仕掛ける、どんどんチャレンジしていく、というのがとても重要な点です。映画「シン・ゴジラ」にとても印象的なセリフがありました。政府高官が「この国はスクラップ&ビルドでのし上がってきた。今度も立ち上がれる。」と言うのです。もう一回やり直そうよ、ということなのです。そこがポイントではないかと思います。4.リソースの面から考える日本の課題本日の3点目のテーマであるリソースの話に移ります。(1)変革期に見合ったリソース配分が重要ア.国力に見合ったR&D投資ができていない米国はトランプ大統領就任後、科学技術系の予算が劇的に増加しています。一方、我が国の科学技術予算は、ずっと減少基調であったことはご案内のとおりです。今は少し持ち直して、10数年前に戻ったような感じです。それでも、米国と日本のGDP差は米ドル建で4.1倍です。しかし、科学技術予算の差は大体4.6倍ぐらい開いています。GDPが2.8倍の中国とは3.7倍の差が開いており、国力に見合ったR&D的な予算の突っ込み方ができていないことは明らかです。イ.教育:まったく競争力のない予算米国のいわゆるトップ大学の幾つかと日本のトップ大学である東大、京大を比べてみると、学生1人当たりの予算、大学の総支出は3倍から5倍違います。それにも関わらず、そのうちの人件費比率がまた驚くべきことにさらに低い。要はまともな給料が払われてないということであり、スタッフもちゃんと確保できないという状況です。実際、日本の大学教員の給料レベルは数十年に渡って据え置かれています。世界的に大学教員の取り合いが起きているせいもあり、一方、米国は日本の倍ぐらいになっています。結果、日本の誇る一流大学から続々若手の教員が流出しています。この技術革新期にありながら、データ×AI系の国研の予算も削られています。また、人間の才能の取り合いは教員レベルだけではなくて、実は大学院でも起きています。中国を含め主要国でPh.D.を取るためにカネが掛かる国はありません。しかし、日本は全部自分で払う必要があります。日本学術振興会特別研究員(学振)に ファイナンス 2019 Oct.69夏季職員トップセミナー 連載セミナー

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