ファイナンス 2019年10月号 Vol.55 No.7
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す。コスト競争力が全くありません。中国の電気代はさらにずっと安いと言われています。データ量がものすごい勢いで増えているときに電気代が高すぎるせいで日本はまた後れを取る可能性があります。このデータ処理コストの高さは国家的な競争力課題と言えます。エ.エンジニア層の課題3点目は人です。あいにく直近のデータがないのですが、中国はICTエンジニア数で既に米国を追い越したと言われています。日本は、米国だけでなく、中国やインドに数で負けていることも問題なのですが、更に問題は中身です。世の中を変えているビックデータやAI系のものを実装できる人が日本では全然足りていないのです。日本のICTエンジニアはSIer(システムインテグレーター)におけるプログラマー的な人が中心になっており、我々の業界では、日本は主要国の中でデータ×AI人材が最も手に入らない国と言われています。オ.足りない理工系学生数私は、日本での人材不足の大きな理由の一つは理工系学生の数が足りないことだと考えています。なぜなら日本では高校2年以降、理系の人しか理数素養を学ばないのが普通だからです。韓国は人口が5千万人しかなく、少子化も日本以上に進んでいるのですが、1学年当たりの理工系学生卒業生の数は日本より年間10万人以上多い。韓国やドイツは技術立国という意識が強いせいか、大卒の3分の2近くが理工系であるのに対して日本は2割ちょっとしかいないのです。デ-タサイエンスの学部も最近まで全然なくて、深い分析訓練を受けた大卒の数も少ないままとなっています。ようやく2017年に滋賀大学にデータサイエンス学部が一つでき、横浜市立大学なども始めた状況です。また日本の新卒は、どんなに優秀な大学を出ていても理系の院卒を除けば、課題設定がちゃんとできない、分析とは何かもわかっていない、統計学も知らない、プログラミングも情報処理もできない、ないないづくしの状態で世に出てくる人が大半です。それを職場あるいは大学院で鍛え直しているのが日本の実態です。言わば、日本の若者たちは持つべき武器を持たずに戦場に出て行っているようなものです。カ.サイエンス層・専門家層の現状サイエンス層・専門家層に関しては、日本にはそもそも数がいませんし、どこにいるのか分からない、仮に見つかっても実社会の利用に関心がある人が少ないのです。日本に必要なのは、内向きのオタクではなく、世界を変えようとするハッカーやテックギーク(tech-geek)です。キ.ミドル層・マネジメント層の問題ミドル層・マネジメント層についても大きな問題を抱えています。彼らはGMすらTeslaにひっくり返された強烈な下剋上の波、チャンスが来ていることをわかっていません。また、この層にこそ存在しているべき、ビジネス課題とサイエンス、エンジニアリングとをつなぐアーキテクト的な人がほとんどの会社でいないのです。さらにスキルを刷新しなければ生き延びることができないのにそれも分かっていない上、学ぶ場がない。このままでは日本は、邪魔なオジサン、「じゃまオジ」だらけの社会になって、大変なことになります。データはない、技術もない、人もいない、ということで、日本は、この新しい世界において世界と勝負になっていないのです。私は166年前の黒船来航の時に近い状況だと考えています。日本は実数軸の側では勝ちましたが、新しい虚数軸側ではこのような状態になってしまいました。(3)日本のキボウでは日本はどうしていけばいいのか。私は3,4年前に経済産業省の産業構造審議会の新産業構造部会でこの問題を考えていました。「希望がないわけではない、まだ十分やりようがある」というのが私の見解です。ア.産業革命の三段階(大局観)産業革命というものを大きく振り返ってみると、3つのフェイズがあると見ることができます。新エネルギーと技術がどんどん出てきたフェイズ1、高度な応用ということで、モーターとかエンジンがどんどん小68 ファイナンス 2019 Oct.連載セミナー

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