ファイナンス 2019年10月号 Vol.55 No.7
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の実数で見てみると、ほとんどこの15年間で差がついてしまったことが分かります。世界的に生産性の向上、付加価値の増加が起きているときに日本はその波に乗れなかったのです。ウ.欧米に劣る産業別の労働生産性産業別の労働生産性をドイツ、英国、フランス、米国と比べてみると、日本のフラッグシップ的な産業である自動車や電気などを見ても生産性は1位ではありません。どの分野がというより、ほぼ全ての分野でまとまったギャップがあります。農林水産業に至っては、生産性が米国の40分の1以下で、ドイツ、英国、フランスと比べても10倍以上違っています。みなICT(情報通信技術)のせいだというのですが、GDP全体に占めるICTのGDP構成比は日米であまり違っていません。ただし、GDPの伸びを見ると日本はICTに極端に依存していることが分かります。つまり、日本はICTがなかったらこの20年GDPが伸びていなかったという驚くべき状況です。一方、米国を見ると、ICTももちろん伸びていますが、それ以外の産業も、土木系を除いて大体伸びています。技術革新期に各産業が成長していない、また、生産性で一人負けしているのです。しかし、考えようによっては、伸びしろしかないとも言えます。生産性で各国を抜き去るというよりも、並ぶだけで相当にまとまった伸びしろがある、これだけで相当の立ち位置の回復が可能なのです。エ.科学・技術論文数でインドに負ける科学・技術論文数で見ると、2016年に中国の論文数は米国を抜き去りましたが、同年、日本はインドに抜かれました。3年前のデータですらそういう状況であり、これは相当にまずい状況です。昔からある学問、例えば物理分野の大学ランキングでは東京大学が世界のトップ10に入っていて、これはこれで素晴らしいことです。しかし、現在世の中を変えているのは情報科学とか計算機科学の方です。計算機科学分野において同じくトップ10を見ると、中国の精華大学が1位であり、中国が4校、シンガポール、米国が2校、他はサウジアラビアとフランスから1校、日本は135位にやっと東京大学が出てくるという衝撃的な状況です。この新しい世の中を変えている分野に関して日本は完敗です。結果的に大学全体の世界ランキングも急激に落ちており、15年前まではアジアトップであった東大も現在アジア6位と言う状況で、我々は、科学、技術、テクノロジーの部分における日本の国力は急激に劣化していることを受け入れなければなりません。(2)AI×データ戦争に勝つための条件ア.3つの成功条件AI×データ戦争に勝つためには、3つの大きな成功要件があります。1点目は、どこからでもデータが取れて、様々な用途に使えること。2点目は、データを回す技術と処理力です。コスト競争力も含まれます。3点目は、それを回す人、エンジニア層及びサイエンティスト層です。イ.勝負にならないデータ量1点目のデータ量については全く勝負になっていません。Yahoo! JAPANは日本では大きいのですが、グーグルとか中国の百度(Baidu)とは検索利用者数が一桁違います。e-コマースについて楽天は日本では大きいものの、アリババやアマゾンと利用者数が一桁違う。SNS系でももはやミクシィをフェイスブックと比べる人はいないでしょう。チャットでは、LINEも大きいのですが、やはりテンセントなどと比べると利用者数が一桁違う。このようにフロントエンド系のビジネスで日本は勝負になっていません。しかも、そのデータを利活用したサービスの多くに関しても、日本では産業保護的な規制がかかってできません。Uber、Airbnbも自由にできません。環境的にも自動走行車やドローンを自由に動かせられる状況では全くありません。ウ.データ処理のコスト:高い電気代2点目はデータの処理力です。データはサービスさえ持っていれば自動的に手に入ります。従ってデータのコストの多くは、処理コスト、すなわち電気代です。データセンターにかかる産業用電気代を日本と米国で比べると、5倍、10倍違うという驚くべき状況で ファイナンス 2019 Oct.67夏季職員トップセミナー 連載セミナー

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