ファイナンス 2019年10月号 Vol.55 No.7
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ら3点が重要です。これほどの重要性があるにもかかわらず、日本では理系学生にすら高校で行列も教えない大変まずい教育課程になっているぞとデータ業界関係者で問題提起をしていたら、ようやく復活することになり、少しほっとしています。いずれにせよ日本はかなり遅れた教育モデルとなっている状況です。エ.データ×AIと人との新たな共存先ほどから申し上げている情報の識別系、予測系、実行系が自動化されていくと、データ×AIと人との新たな共存の形ができてきます。多くの人間の仕事は、総合的に見立てたり、方向を定めたり、人を奮い立たせるなど人間力を発揮する方向に向かっていく。データ×AIの力を解き放ち、共存していくことで、人間は情報の価値を見極めて人間らしい価値を提供することに集中することができるようになると考えられます。オ.データ×AI時代における人材育成これまでは、どちらかというと人はマシンとして育てられることが重視されてきました。つまり、機械が得意なことをこれまで人間は頑張ってきたのですが、データ×AI時代ではそれではダメです。まずは第1に、国民一人一人のベースリテラシーを上げて、未来のマインドを育てることが重要です。第2に、大学や大学院において専門家をしっかり育てる必要があります。これは多言語的な人です。情報系だけでなく応用領域的な人たちを育てなければいけないのです。そのためには横断型のプログラムにせざるを得ない。例えば繊維のことをやりながら情報科学もやる、ということをやらないと、いつまでも我々の服はアップデートされません。第3に、次世代のリーダー層の育成というのがどうしても必要になります。それを育てるための国家プロジェクトも重要です。でもこれらをすぐに開始しても10年から15年かかるので、間に合わない。12年前に生まれたスマホが世の中を刷新したことから分かるとおり、通常の5倍速と言われる私たちの業界では、15年前は太古の時代なのです。つまり、国家を上げて人材育成に取り組むことは「国家百年の計」的に重要ですが、これだけでは間に合わない。今のエンジニアをテコ入れすることと、ミドル層、マネジメント層のスキルを刷新していただくことがまず必要になります。これでも間に合わないというのが私の見解であり、おそらく海外の才能をしばらく輸血して、明治維新の時のようにしのぐ、なかば時間を買うことが必要だと考えています。3.日本の現状次に本日の2つのテーマである日本の現状に関する私の意見についてお話します。(1) 科学、技術、テクノロジー分野での急速な劣化ア.企業の時価総額のランキングの変化いわば企業の成績表とも言える時価総額のランキングを見ると、2007年時点ではガソリン、石油を売っている企業、銀行、メーカーといったところが上位で、日本企業ではトヨタが10位にいました。これが2019年になると、様変わりです。スマホの上に乗っかり、データ×AIを使いこなすところが時価総額上位のほとんどなのです。トップ10内には中国のテンセントとアリババがいて、22位にサムスン(韓国)がいるのですが、日本企業のトップはトヨタが50位くらいにいるという衝撃的な状態です。企業レベルでは、日本は中国や韓国にすら負けたことを認めざるを得ない状況です。イ.日本の生産性は1960年代の立ち位置GDPを見ますと、日本は3位です。でもトレンドがあまり良くありません。人口8千万人しかいないドイツにまもなく追い付かれかねない。一人当たりGDPのランキングを見ると、日本は現在30位くらいですが、私が大学生だった1980年代末、日本は5位、G7国の中では1位でした(現在は6位)。現在の日本の一人当たりGDPの世界でのランキングはだいたい1960年代くらいの水準です。日本がこれまで積み上げてきた多くの部分が吹っ飛んでしまっている状況です。どこで差がついたのでしょうか。一人当たりGDP66 ファイナンス 2019 Oct.連載セミナー

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