ファイナンス 2019年10月号 Vol.55 No.7
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(2)富の生まれ方の変化ア.規模が富に繋がらない時代私が面白いと思うのは、富の生まれ方の変化です。2年ほど前ですが、電気自動車を製造するTesla(テスラ)の時価総額が世界最大級の自動車メーカーGMの時価総額を超えたというニュースがありました。これは衝撃的です。そもそも作っている車の数が100倍以上違っている中で、しかもザ・オールドエコノミーの代表格であるクルマ産業で起こったからです。これに類することはあらゆる産業で起こる可能性が高い。言うならば見えるモノの「実数軸」の時代、すなわち大きさが事業価値を生む時代から、見えないモノの「虚数軸」の時代、すなわち新しい技術を使ってアップデートできるかどうかがものすごく大きい事業価値につながる時代に変化しつつあるのです。そしてここで大事なのは、夢を描いて形にする力です。イ.主要先進国は人口調整局面に突入では、なぜスケール(事業規模)が効かないのでしょうか。その一つの理由は、世界の人口が強い調整局面に入っていることだと考えられます。先進国及び中国が消費の中心となるわけですが、そこが人口調整局面を迎えている。米国も移民さえ止めれば2025年から2030年の間に減り始めると言われています。『Factfulness』(ハンス・ロスリングほか著。日経BP 2019;表題の意味はデータや事実に基づき世界の現状を正しく見ること)的にはインド、アフリカもいずれそうなる可能性が高い。これが現在、かなり大きいスケールでシェアを持っている企業にとっては負のトレンドとなります。(3)必要な人材モデルを時代に即して刷新ア.どのような人材が必要になるのか必要な人材も変わってきています。今まではN倍化(大量生産)人材、アップデートの人材が大事だった時代で全く新しいことをやっていると変人扱いされた時代でした。これからは、新しいことをやらないとまとまった価値にならない時代に入っています。このように未来を生み出していくということは、夢や課題を技術で解決して、デザイン的にパッケージングしていくということですそうなると、今までの競争型の人材というよりも、新しいことを仕掛けようと思う人やいろいろなものを繋ぎ合わせてやろうと思う人がカギになってきます。一人ではそうしたことをやろうとしても極めて難しいので、様々な分野に相談できる人がたくさんいるというのが重要になります。イ.データ×AI文脈ではどうかよく言われるような、「AI対人間の対立」というようなことはナンセンスであり、実際はAIとかデータを使いこなせない人と使いこなせる人との勝負になることはほぼ確実だと思います。ちなみに現在、中国では、中等教育段階で深層学習に至るところまで教育を開始しています。AIやデータを使いこなせる人を生み出せるかどうかが国家レベルの勝負どころになってきているのです。日本がそういうことができているかというと、ほぼ未着手なのが実情です。AI-readyな人材を生み出すことができないでいることは大きな課題です。ウ.社会を生き抜くための基礎教養の変化今までの基礎教養、すなわち人を使う側と使われる側を分ける力は「母国語なり世界語で考えて伝える」プラス「問題をきちんと設定して解く」という力だったと思うのですが、ここに、さらに「データやAIを使い倒すリテラシー」が加わってくるのが我々の子、孫たちの世代の基本になると思います。よく「プログラミングではないのか」という議論があります。プログラミングは大事ですが、世の中を変えているベースの力はむしろ情報科学、データサイエンス系です。これは数学と統計の言語で書かれており、プログラミングとは直接関係がありません。データサイエンスで大事なこととして、1点目は統計学です。統計的にものを考える力がないと、データをハンドルするのは難しいのです。2点目が線形代数です。現在の深層学習モデルは変数が数千万から億単位のものがザラです。それを扱うには行列・テンソルで多次元ベクトルを扱うしかないのです。3点目が偏微分等を中心とした微積分であり、これ ファイナンス 2019 Oct.65夏季職員トップセミナー 連載セミナー

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