ファイナンス 2019年10月号 Vol.55 No.7
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財務総合政策研究所Ministry of Finance, Policy Research Institute1.はじめに安宅です。よろしくお願いいたします。本日は、3つの構成でお話ししたいと考えています。1つ目は私から見た世の中の変化の話、2つ目はその変化の動きの中での日本の現状、3つ目はこうした変化を踏まえて、リソースの面で私が考える日本の課題は何か、ということです。2.私から見た世の中の変化(1)産業革命級の変化の過程にア.碁の世界で人間がコンピュータに負ける2016年にイ・セドルという碁の世界の魔王とまで言われた人が米Google傘下の企業が開発したAlpha GoというAI、コンピュータに負けました。これは歴史的な瞬間だったと思います。翌年、当時の世界ランキング1位の19歳の天才児柯カ ・ ケツ潔までもがAlpha Goに負けました。これは人類の敗北なのです。IQが200くらいあってもおかしくない連中が二人立て続けに負けるということはただごとではありません。産業革命級の変化の過程にある、というのが私の見解です。情報の爆発に伴い、また計算関係の激増とアルゴリズムの進化により、かなりの情報処理が自動化できるようになりました。簡単に言うと、情報の識別系と予測系及び目的が明確な実行系はほぼ自動化します。識別系に関しては、音声であろうと画像であろうとほぼ人間を完全に超えた状況です。ちなみに、現在ではもう口の動きだけで何を話しているのか分かる状況で、機械に読ませると9割まで判別できる状況になっています。あらゆる産業において、これらの識別能力あるいは予測能力、実行系というのが組み込まれていくのはほぼ確実です。産業革命時に肉体労働、手作業からの開放という大きな変化がありましたが、現在の情報産業革命は、人間を数字入力や情報処理作業から開放する、つまり、もう一回人類は解き放たれるというのが私の見解です。イ.ヒト・モノ・カネからヒト・データ・キカイヘ4年ほど前にハーバード・ビジネス・レビューに書いた論考があります。産業を、モノ・カネといったハード系(製鉄、クルマ、半導体など)とデータ・キカイ系(ビッグデータ、AIなど)に分けて考えると、いわゆるオールドエコノミーであるハード系とニューエコノミーであるデータ・キカイ系が急激に融合していく瞬間にある、というのが今の時代観です。ウ.世界の重心がアジアに戻る局面もうひとつ重要な話だと思うのは、世界のGDP構成比推移です。2~3百年前は世界の経済的な重心は常に中国かインドだったわけですが、その後は急激にシェアを落としていきました。でもこれが過去数千年間なかったスピードでアジアに重心が戻って来ている。これは非常に歴史的瞬間であると思います。遠からず中国のGDPが1位になる見通しであり、既にデータ×AI視点で見た先端的な取り組みは中国が先端になっていることも加味すると、遠からず我々も中国語を学ばなければならなくなる日が来るでしょう。令和元年8月2日(金)開催夏季職員 トップセミナー安宅 和人 氏(慶応義塾大学環境情報学部教授/ ヤフー株式会社CSO)“シン・ニホン” AI×データ時代における日本の再生と 人材育成演題講師64 ファイナンス 2019 Oct.連載セミナー

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