ファイナンス 2019年10月号 Vol.55 No.7
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加えて、いろいろな仕組みの変更も一気にやってしまわないと「1年経って、この程度の変更でも業務は回ったのだから、来年度も大丈夫なのではないか。」という気持ちが社内に生まれ、これは弛みに繋がっていくのです。あるいは逆に、長くあいまいな状況が続くことによって組織が疲弊するということもあります。よって、大きな変化は一気にやってしまうことが肝要です。イ.組織が元来持つ風土や知見に配慮する組織改革の要諦の2点目は「組織が元来持つ風土や知見に配慮する」ということです。外部から理屈を並べ「これがいいのです。」と言ったとしても、その組織の方々が「よし、やってみよう、これならやれる。」という気持ちにならないと、絶対に実現することはできません。組織風土や文化に合ったやり方で取組むことは非常に重要です。・組織の構成員が持っていた問題意識を活かす業績が不振の企業では、経営幹部は資金繰りで手一杯であり、ほとんど社員や事業のことを顧みることができない場合があります。しかし、前線で営業をやっている方、工場で製品を作っている方、調達部門で取引先と相対している方、こういう方々が生きた問題意識を持っています。そういうご意見を伺って、議論をすると、「これは自分にとって意味のある改革だ。」「自分が5年、10年ずっと問題に思っていて、上司に訴えても対応してもらえなかったことがこの機会にできる。」という反応が返ってきます。自分の問題意識が解決に向かっていくのを見るのは張り合いがあることだと言われます。また、再生支援をする人もそこから多くを学ぶことができます。ウ.時間の効果を活用する組織改革の要諦の3点目は「時間の効果を活用する」ことです。これは私の経験ですが、外からやってきた人間から新しい考えを持ち込まれると、それを聞いた人は拒絶反応を起こすことが多いのです。「自分たちが今までやっていたことのどこが悪いのか。」「そんなことをやってもやらなくても関係ない。」「そもそも会社が潰れたのは自分のせいではない。」といったネガティブな気持ちにどうしてもなりがちです。・施策作成、実施のために繰り返し対話する社員が持っている問題意識を引き出して「皆さんが思っていたこと、例えば、ちょっとした改善をしたいと考えていたことが、今回は実現に向かって動き始めています。」ということを分かっていただく。すぐできることはすぐやる、じっくりやることは時間をかけてやっていく。私が再生に関わった会社の例で結果的に良かったことなのですが、一週間に1回、必ず2時間ずつ各部門と議論することにしました。一週目に聞いたときは、社員の方々は「やりたくない」という感じで誰も反応しないで黙っていたのですが、二週目になると、少しこの人の話を聞いてみようかな、という人が出てくる。三週目になると、自分もちょっと発言したいといった表情をする人が出てきます。それは必ずしも部長とか課長クラスの方ではありません。そのような方に水を向けてみると、「自分がずっとお客様と向き合う中で、こんなことを言われていたのに、どうして改まらなかったのか。」という発言が出てきたりします。こうして四週間、五週間とやっていくと、計画していることがだんだんと全員のものになっていきます。新しいことを時間が消化させる効果も大切です。・浸透のための努力を続ける浸透のための努力を続けることは重要です。できない100点でなく、できる70点でも良いのです。改革を進めていけば、成功を実感して協力者も増えていきます。そのためには、繰り返しになりますが、それぞれの人が聞いた改革施策の内容が一週間経ち、二週間経つ中で自分の心の中で醸成されていくような、そういった時間の効果というものも見込んでいく必要があります。・成功に目途が付いたら、達成感の演出をする達成感の演出もポイントです。小さなことでよいのです。ちょっとした表彰というようなものでもいいと思います。一生懸命やっている方に光が当たる、経営者が個々人や個々の部門を見ている、というメッセージを送ることが大切です。先ほどのバス会社の例ですが、その会社は長いこと、新車のバスを買ったことがありませんでした。償却期限を過ぎた都会のバスの中古品を買って、塗装し58 ファイナンス 2019 Oct.連載セミナー

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