ファイナンス 2019年10月号 Vol.55 No.7
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財務総合政策研究所Ministry of Finance, Policy Research Institute1.はじめに秋池です。よろしくお願いいたします。財務省の方から、財務省再生プロジェクトの理解を深める上で、「事業再生ではどのような議論が進められているのか。議論のポイントは何か。」を話して欲しいとの要請がありました。確かに、このような議論を皆様に紹介する機会がありませんでしたので、本日のこの機会にお伝えしたいと思います。大きく分けて、「組織改革の成否を分けるもの」「組織を取り巻く環境の変化」「財務省の取り組み」といった順番でいろいろな民間事例を織り交ぜながらお伝えします。2.組織改革の成否を分けるもの(1)事業再生の要素まず、組織改革の成否を分けるものという大きなテーマのうち、事業再生の要素についてです。事業再生に当たっては、まず事業再生計画を作成しまして、その計画に基づいてどれくらい債権放棄してもらうのかを決めます。そして、様々なステークホルダーと議論をした上で、それを財務のリストラクチャリングという形で実行し、新しい資金が必要な場合には増資や金融機関からの借り入れを行い、事業を立て直す段階に入ります。その際には、人的リストラ、事業の売却あるいは事業の取り止めなどといった手段を講じながら先に進んでいくのが一つの定型です。事業再生というと、会社が破たんした、何兆円の負債がある、人的リストラをこのくらいやった、というようなことはよくニュースになるのですが、その後に長く続くとても重要なプロセスが「組織改革」の部分なのです。(2)事業再生の変化もともと事業再生というのは、破たん処理から始まっているとのことです。債権者が破たんした会社からどれだけ債権を回収できるか、というところから始まりますので、どちらかというと弁護士とか裁判所の仕事だったそうです。1990年代頃から日本にもバイアウトのファンド、プライベートエクイティファンドと呼ばれるものなどができてきまして、銀行だけでなく、それらも含めて債権だけでなく株式も使って立て直すという手法が使われるようになったり、あるいは法的整理だけでなく、私的整理の手法ができたりして、事業再生が多様化してきました。また、清算するのでなく、ビジネスを続けていただき、その中で債権を回収していくという考え方も出てきました。更に事業再生の変化に関しては、右肩上がりの時代は負債が減ればおのずと成長し利益は増えていき、いずれは残りの負債を返して立ち直れたものが、それをやってもまた破たんしてしまう例が出てきました。これを見て事業再生の世界の方々が「事業を見る人も巻き込んではどうか。」と考えるようになったということです。そういったこともあり、2003年に設立された産業再生機構では「現在この企業が持っている事業や組織能力の中で、将来に残すべき事業は何か、どのような要素が将来に渡ってこの組織の競争力の源泉となり得るのか。」といったことも見極めながら、現在の利益令和元年8月1日(木)開催夏季職員 トップセミナー秋池 玲子 氏(ボストン・コンサルティング・グループ マネージング・ディレクター&シニア・パートナー)組織改革の取り組み ~事業再生の事例から~演題講師56 ファイナンス 2019 Oct.連載セミナー

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