ファイナンス 2019年10月号 Vol.55 No.7
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BOX 2 アフィン型期間構造モデルここでは少しフォーマルにGürkaynak and Wright(2012)をもとにアフィン型モデルの説明を行う。まず短期金利が下記のように定まると想定する。yt(1)=δ0+δ1'Xtこの際、Xtはファクターであり、ベクトル自己回帰モデル(Vector Autoregressive Model, Xt+1= μ+ΦXt+Σεt+1)に従うと想定する。また、プライシング・カーネル*32が次のような形に従うとする。Mt+1=exp(-yt(1)-12λt'λt-λt'εt+1)上記を条件に、Langetieg(1980)はn年の債券の利回りが下記のような形で定まることを示した。yt(n)=-Ann-Bn'nXt…(*)この際、係数であるAnとBnはA1=-δ0, B1=-δ1から始まり、次のような形で順次定まる。An+1=-δ0+An+Bn'(μ-Σλ0)+1/2Bn'ΣΣ'BnBn+1=(Φ-Σλ1)'Bn-δ1このモデルがアフィン型モデルといわれる理由は、すべての年限の利回りがファクター(Xt)に対して「線形+定数項」という形で表現できるからである。なお、一定の条件の下、(*)は下記のように表現できるが、これはネルソン・シーゲル型のモデルであり、X1t,X2t,X3tはレベル、傾き、曲率を表す潜在ファクターと解釈される。yt(n)~-X1t+X2t1-exp(-n/τ)n/τ+X3t[1-exp(-n/τ)n/τ-exp(-n/τ)]アフィン型モデルを用いれば、イールドカーブとマクロ変数の関係を明示的にモデル化することが可能である。例えば、短期金利はテイラー・ルールに基づけば、yt(1)=δ0+δ1,1πt+δ1,2gaptと記載できるが(yt(1)は政策金利、πtはインフレ率*33、gaptはGDPギャップ、δ0,δ1,1,δ1,2は係数)、アフィン型モデルを用いれば、債券の間で十分な裁定がなされていると想定しながら、すべての年限の金利をインフレとアウトプットギャップに明示的に関係づけることができる。具体的には、任意のn年の金利に対して、yt(n)=a0(n)+a1(n)πt+a2(n)gaptという形でマクロ・ファクターの線形関数で長期金利を表現できる(a0(n),a1(n),a2(n)は係数)。*32) プライシング・カーネルについてのアドホックさを排除するため、Campbell(1986)など個人の最適化行動をベースに導出する論文も存在する。マクロ経済学ではプライシング・カーネルより確率的割引ファクター(stochastic discount factor)と呼ばれることが多い。*33) 一般的にテイラー・ルールにおいて、目標とするインフレとのギャップが用いられるが、ここではGürkaynak and Wright(2012)と同様、インフレ率を用いている48 ファイナンス 2019 Oct.連載日本経済を 考える

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